抗コリン薬が認知機能障害を引き起こすことを調査した研究は、いくつか報告されている。しかし、日本の超高齢社会において、認知症リスクと抗コリン薬の関連は十分に研究されていない。大阪大学のYuki Okita氏らは、日本の高齢者における抗コリン薬と認知症リスクとの関連を評価するため本研究を実施した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2023年12月号の報告。
2014~20年の日本のレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。対象は、認知症患者6万6,478例および、年齢、性別、市区町村、コホート登録年がマッチした65歳以上の対照群32万8,919例。1次曝露は、コホート登録日からイベント発生日またはそれに一致したインデックス日までに処方された抗コリン薬の累計用量(患者ごとの標準化された1日当たりの抗コリン薬総投与量)であり、各処方の抗コリン薬各種の総用量を加算し、WHOが定義した1日の用量値で除算して割り出した。抗コリン薬の累計曝露に関連する認知症のオッズ比(OR)の算出には、交絡変数で調整した条件付きロジスティック回帰を用いた。
主な結果は以下のとおり。
・インデックス日の平均年齢は84.3±6.9歳であり、女性の割合は62.1%であった。
・コホート登録日からイベント発生日またはインデックス日までに1種類以上の抗コリン薬が処方された割合は、認知症患者で18.8%、対照群で13.7%であった。
・多変量調整モデルでは、抗コリン薬を処方されていた人は、認知症と診断されるORが有意に高かった(調整OR:1.50、95%信頼区間:1.47~1.54)。
・完全多変量調整モデルでは、抗コリン作用を有する薬剤の中でも、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬、膀胱に対する抗ムスカリン薬の使用で、認知症リスクの有意な増加が確認された。
著者らは「日本の高齢者が使用するいくつかの抗コリン薬は、認知症リスクの増加と関連している」とし、「これらの集団に対して抗コリン薬を使用する際には、ベネフィットと並び、潜在的なリスクを考慮する必要がある」としている。
(鷹野 敦夫)