昨年の7月にCareNet.comではマイナンバーカードの健康保険証利用の普及に先駆け、医師のマイナ保険証の取得率や自施設のカードリーダー設置率を調査した。その結果、「マイナンバーカードと保険証の連携手続きが済んでいる」と回答した医師は約6割にのぼり、カードリーダー設置率も6割を超えていた。ところが、国民のマイナ保険証利用率を直近の令和6年3月時点のデータで見ると、病院12.59%、歯科診療所10.27%、医科診療所5.22%、薬局4.17%と、今年12月に紙の保険証が廃止される状況下としてはなんとも心もとない。
そこで、医療機関、保険者、経済界の代表が集う日本健康会議がマイナ保険証の利用促進のため、4月26日に医療DX推進フォーラム『使ってイイナ!マイナ保険証』を開催。武見 敬三氏(厚生労働大臣)、齋藤 健氏(経済産業大臣) 、河野 太郎氏(デジタル大臣)らが「マイナ保険証利用促進宣言」を行い、これを皮切りに5~7月をマイナ保険証利用の集中取り組み月間として総力を挙げるという。
以下では病院、歯科診療所、薬局での具体的な取り組み事例を紹介する。
病院の事例(島貫 隆夫氏:日本海総合病院 統括医療監)
床に案内レーンを設けることで、患者の身体状況やマイナンバーカードの所有状況に応じた受付ルートを案内。また、マイナンバーカードと診察券を一体化する取り組みを行っている。このほか、デジタルサイネージによるマイナンバーカードの利便性の紹介、マイナ保険証を持参していない人へのスタッフの声かけ、次回受診時に持参を促すチラシを配布し、利用率の向上に努めている。
患者側のメリットとして、マイナンバーカードと診察券を一体化することで携行しているマイナンバーカード1枚で受付を済ませられる、などの声が寄せられた。一方、
医療スタッフ側のメリットとして、▽マイナ保険証を利用してもらうことで常に正確な保険資格情報を得ることができる▽医事会計システムに取得情報を取り込むことで入力業務、確認業務が効率的になった▽高額療養費制度の限度額認定証の情報が常にアップデートされるため、口頭同意が不要となり入院時の手続きがスムーズになった、などが挙げられた。
歯科診療所の事例(山上 博史氏:やまがみ歯科)
患者の医療情報を患者自身の治療に役立ててもらいたいという思いを持ち、カードリーダーを目立たせる位置に設置し、マイナ保険証持参のポスター掲示、スタッフによる声掛けなどを実施している。マイナ保険証利用によって
▽アドレナリン禁忌患者への歯科麻酔薬の選択問題が解決できる▽抜歯時の出血を考慮した抗凝固療薬の服用状況の確認ができる▽鎮痛薬の重複処方を回避できる、といった処置に関わる問題が解消され、さらに受付業務上のメリットとして、▽保険証情報の入力時間の削減▽レセプト返戻数の減少▽保険証返却忘れの解消などを挙げた。
薬局の事例(渡邊 大記氏:日本薬剤師会副会長)
主な取り組みとして、マイナンバーカードによる受付を明示、カードリーダー設置場所や投薬台に啓発用ポスターを掲示、待合でデジタルサイネージを活用など、患者の動線に応じた啓発を実践し、持参していない患者には薬剤交付時に啓発用チラシを交付している。
薬局での大きなメリットは、患者の負担になりやすい聞き取り時間の短縮である。さらに、
マイナンバーカード経由でこれまで見えなかった情報(入院中や院内投薬を含む使用薬剤の情報、特定健診の情報、医師からの診療情報)を把握することで、▽医療機関での院内処方の薬剤情報を確認することで、相互作用を回避できる▽特定健診情報を活用することで、薬剤服用によって期待される治療効果について、より適切な説明・指導を実施できる▽歯科の受診状況(麻酔使用の有無)が確認できる点を挙げた。
最後に、渡辺 俊介氏(日本健康会議 事務局長)は「質の高い医療を確保し、医療の適正化を図るためには医療DXに取り込むことが重要。今回の事例以外にも、東京慈恵会医科大学附属病院ではマイナンバーカード専用の会計レーンを設置し、待ち時間短縮の取り組みを行っている。利用推進と共に高齢者の不安を取り除きながらマイナ保険証が使いやすい環境を整えていきたい」と主催者代表として締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)