診療所のマイナ保険証利用率は10%未満の施設が約7割/日医

提供元:ケアネット

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公開日:2024/12/27

 

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催し、年末年始の感染症対策ならびに診療所における医療DXに係る緊急調査の結果について説明を行った。

 初めに松本氏が、会員医療機関の経営逼迫に対し政府などへの要望、医師偏在対策への提案など、この1年の医師会のさまざまな事業を振り返った。続いて「年末年始の感染症対策等について」として副会長の釜萢 敏氏(小泉小児科医院 院長)が、この数週間で急増しているインフルエンザ流行への対策、同時に新型コロナウイルス感染症への対応について説明した。とくにインフルエンザの迅速診断キットが外来などの現場で不足していることに触れ、医師会として厚生労働省に要望を出していること、臨床現場では特定のメーカーのキットだけでなく、融通できるキットを使用して診断を行ってもらいたいと語った。また、予防対策として「『マスク着用、手指衛生とうがい、換気の実施』は、従来どおり行ってもらいたい」と述べた。

診療所のDXのカギは人材育成と政府の支援

 「診療所における医療DXに係る緊急調査の結果」について、担当常任理事の長島 公之氏(長島整形外科院長)が概要を説明した。

 冒頭、先般の電子処方箋の不具合による発行停止に触れ、「健康被害発生を防ぐために万全を期してほしい。不具合の解消までの再開延期は妥当だが、今後こうした事態が発生しないようにお願いしたい。そのために医師会も支援・協力をする」と語った。

 次に今回行われた医療DXに係る緊急調査の結果の内容について説明した。

 本アンケートは、医療DX推進が拙速に進められると医療提供体制に混乱や支障が生じるという懸念、医療DX推進体制整備加算の電子処方箋導入に関する施設基準の経過措置が令和7(2025)年3月31日までであること、診療所での医療DXの取り組みについての調査は今まで行われていないことから、実態や負担感について緊急調査を実施したもの。

 調査は、2024年9月20日~10月4日まで無作為に抽出した医師会員の診療所管理者(院長)1万人にWebで行い、うち4,454人(回答率44.5%)から回答を得た。回答年齢階層はほぼ均等で、内科、眼科、小児科の順で回答が多かった。

1)マイナ保険証について
 マイナ保険証の利用率は低迷。調査では、利用率(レセプト件数ベース)が10%未満の施設が全体の約7割を占めた。また、医療DX推進体制整備加算の令和7(2025)年1月から予定されている施設基準(10%以上)を満たせない施設が多かった。傾向として院長の年齢が高い施設や小児科(患児のカードが作成されていない)などで利用率がさらに低い傾向だった。

2)電子処方箋について
 電子処方箋を導入済みで運用中は4.6%、導入済みだが未運用が9.9%で、導入率は計14.5%で低迷。医療DX推進体制整備加算の経過措置(~令和7年3月末)後の施設基準を満たす施設はごく一部に止まっていた。未運用の理由は「地域の薬局や医療機関が未運用である」が多く、課題として地域が一体となって推進することが求められた。また、電子処方箋を導入していない理由は、「システム費用面の負担が大きい」が58.3%、「導入のメリットを感じない」が52.5%、「ICTに詳しい人材の不足」が40.4%だった。

3)電子カルテ・電子カルテ情報共有サービスについて
 電子カルテの使用割合は62.6%であった。院長の年齢階層が高いほど使用率が下がるが、70歳以上の階層でも41.4%が使用していた。これは、回答者がICTに慣れた医師が多い可能性もあり、偏りには留意が必要。また、電子カルテ情報共有サービスについては、診療中にネットワーク上の患者情報をみることは難しいという意見が約4割を占めた。有事の際の利用など認識度は低く、現時点では内容が十分に周知されていない状況だった。

4)医療DXに係る課題について
(1)ICT人材不足と医師の作業負担
 ICTの知識がある人材が不足していると回答した施設は9割強にのぼった。64.1%の施設では医師が診療のかたわらにシステム対応を行っており、システム対応の作業負担は大きいことがうかがえた。
(2)システム費用負担
 電子カルテとレセコンを合わせると高額なシステム費用を負担している施設が多く、95%の施設はシステム費用の負担を感じていた。国や自治体からの補助金や診療報酬上の十分な手当がないと、医療DXの推進は困難な状況だった。

5)まとめ
・診療所は規模が小さく、ICT対応に係る負担感が大きい。ICT人材は不足し、システム事業者に払う費用負担は重荷となっている。
・医療DXの推進には、国の全面的な支援が必要で、現場の実情に即した診療報酬上の手当てと、補助金の検討が求められる。その際、単純な平均値だけではなく分布を踏まえて対応すべきである。
・ステークホールダーが多い中、効果的な情報提供が不可欠であり、システム事業者対応に伴う作業負担の軽減、高齢の医師などへの支援も求められる。
・医療DXはわが国の患者・国民により良い医療を提供するためのきわめて重要な取り組みである。災害時に患者の診療情報を閲覧できるなど、わかりやすい説明を現場に提供し、急がず、丁寧に進めることが肝要である。
・医師会においても高齢の医師を含む地域の医師・医療機関に寄り添い、情報提供と支援を今後も行っていく。

 以上の内容を踏まえ長島氏は、医療のDX化は必要であり、推進を認めつつも、政府による義務化や強制には難色を示し、「医療機関も患者もDX化で取りこぼしのないように援助・支援を行うべきである。さまざまな診療報酬の加算も期限を設けるのではなく、実情を考慮してもらいたい」と語り、説明を終えた。

(ケアネット 稲川 進)