ノボノルディスクファーマは、世界初の週1回投与のインスリンアナログ製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ)の1月30日の発売に合わせ、「これからの2型糖尿病におけるインスリン治療」をテーマに都内でプレスセミナーを開催した。
セミナーでは、イコデクの製品説明のほか、専門医によるインスリン治療のアンメットニーズ、イコデクの第III相臨床試験である「ONWARDS試験」の詳しい内容、使用に適する患者像などが説明された。
インスリン導入の障壁を超すことに期待
「企業紹介と製品説明」をテーマに杉井 寛氏(同社取締役副社長経営企画本部 本部長)が、企業概要とイコデクの製品概要を説明した。デンマークに本社を置く同社の社会的意義は「糖尿病で培った知識や経験を基に、変革を推進し深刻な慢性疾患を克服する」ことであり、現在、糖尿病、肥満症、希少疾患、心血管および新疾患領域で活躍をしている。
そして、主要製品を上梓している糖尿病について、「2型糖尿病におけるインスリン導入の遅延」について触れ、医師に聴取したアンケートを示し、概要を説明した。
アンケートで「医師自身が2型糖尿病だとしたらインスリン治療を開始するHbA1c値」についての回答は8.2%、「患者さんのインスリン治療を開始するべきと考えるHbA1c値」についての回答は8.7%、「インスリン治療を実際に患者さんに勧めたHbA1c値」についての回答は9.6%と医師の理想と実際の導入時期には大きな隔てがあることを示した
1)。そして、注射回数の多さが導入遅延の原因の1つであり、こうした障壁の解決が模索されていた。
今回登場したイコデクは週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液であり、糖尿病患者の負担を軽減すると期待されている。イコデクは、ヒトインスリン分子を修飾して半減期が延長されるように設計されている。注射をすると1週間分のイコデクが1度に投与されることになるが、そのほとんどがアルブミンと結合し、時間と共に蓄積し、循環血液中の不活性な貯蔵体(デポー)が形成される。そして、イコデクは標的組織にゆっくりと、少量ずつ移行し、血糖降下を促す機序となっているという。臨床試験では第III相試験としてONWARDS試験が行われ、いずれもほかのインスリンと比較しても非劣性であり、低血糖の発現など安全性の面でも良好な結果だった。杉井氏は、これらの結果を踏まえ、インスリン導入が今後進展することに期待を寄せた。
医師と患者さんの望みに合うインスリン製剤
「これからの2型糖尿病におけるインスリン治療」をテーマに綿田 裕孝氏(順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学 教授)が、インスリン治療の概要やONWARDS試験について説明を行った。
インスリンは血糖を下げる唯一のホルモンであり、2型糖尿病ではインスリン分泌能が低下するか、インスリン抵抗性が増大することで、体内のインスリン作用が不足し、食後や空腹時高血糖となる。こうした糖尿病で懸念されるのが神経障害や腎障害、眼障害の合併症であり、最近では、心疾患や肝臓障害、認知症も併存しやすい疾患として知られている。
糖尿病の治療では、近年、多くの血糖降下薬などが使用できるようになり、血管合併症予防のための血糖管理を容易にする薬剤が登場している。そのためわが国の糖尿病治療の目標も「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」を掲げ、糖尿病合併症の発症、進展の阻止を目指して診療が行われている。
非インスリン依存状態の治療では、生活習慣改善のために食事療法と運動療法がまず第1選択として行われ、さらに効果不良の場合に血糖降下薬などが追加される。
インスリン依存状態の治療では、インスリン分泌が著しく低下している患者さんには、基礎インスリンと追加インスリンの治療が、インスリン分泌が比較的保たれている患者さんには、基礎インスリンと血糖降下薬での治療が通常行われている。
ただ、インスリン治療の障壁として、低血糖の発生、治療の複雑化、患者さんの注射の実施率などの課題が指摘されている。実際、医師への「インスリン治療に対する認識」のアンケートでは、「毎日注射しなくても良好にコントロールできるインスリンが欲しい」と91.2%の医師が回答し、「毎日の注射の回数が患者さんの障害になっている」と58.5%の医師が問題性を指摘している
2)。また、患者さん側の週1回インスリン製剤の認識として「利便性が高い」「アドヒアランスの向上」「治療への抵抗感の改善」などの声もあり、医師と患者双方の側で週1回のインスリン製剤が望まれていることが報告された。
他のインスリンと比較し効果は非劣性かつ安全
今回発売されたイコデクは、第III相臨床試験で“ONWARDS試験”が行われ、6つの試験が実施された。
ONWARDS1はインスリン治療歴のない2型糖尿病患者を対象とした試験で、イコデク群492例(週1回投与)とグラルギンU100群492例(1日1回投与)を78週にわたり有効性と安全性を比較したもの(日本人164例を含む国際共同治験)。52週までのHbA1c変化量と推移では、ベースラインからイコデク群が-1.6%だったのに対し、グラルギンU100群は-1.4%で非劣性が検証され、統計的な有意差が認められた。また、78週経過後も同様の変化量で推移していた。HbA1c7.0未満の達成率は、78週でイコデク群が54.5%だったのに対し、グラルギンU100群は46.4%だった。CGMパラメータについて、投与後48~52週のTIR(time in range:血糖値が70~180mg/dLの範囲にある時間の割合)について、イコデク群が71.9%だったのに対し、グラルギンU100群は66.9%と統計的に有意に高い値だった。安全性につき重大または臨床的に問題となる低血糖の発生は、83週でみた場合、イコデク群が61件(12.4%)だったのに対し、グラルギンU100群は70件(14.2%)だった
3)。
ONWARDS2は、Basalインスリンで治療中の2型糖尿病患者を対象としたインスリン以外の糖尿病治療薬の併用/非併用下でのイコデク群263例(週1回投与)とグラルギンU100群263例(1日1回投与)を26週にわたり有効性と安全性を比較したもの(日本人100例を含む国際共同治験)。26週までのHbA1c変化量と推移では、ベースラインからイコデク群が-0.9%だったのに対し、グラルギンU100群は-0.7%で非劣性が検証され、統計的な有意差が認められた。HbA1c7.0未満の達成率は、26週でイコデク群が40.3%だったのに対し、グラルギンU100群は26.5%だった。安全性につき重大または臨床的に問題となる低血糖の発生は、26週でみた場合、イコデク群が37件(14.1%)だったのに対し、グラルギンU100群は19件(7.2%)だった。
また、副次的評価項目として糖尿病治療満足質問票(DTSQ)の総スコアでは、26週でイコデク群が4.2だったのに対し、グラルギンU100群は3.0で、イコデク群の方が高いスコアで、有意に改善していた。「満足度」、「利便性」、「融通性」などの各スコアでいずれもイコデク群の方が高かった
4)。
最後に綿田氏は、イコデクの使用に適切な患者像として具体的に次の7つを示した。
(1)2型糖尿病で基礎インスリンによる治療を開始する患者さん
(2)これまでにインスリン導入がなかなかできなかった患者さん
(3)若い方~壮年の患者さん
(4)毎日のインスリン注射、もしくはそのサポートが負担になっている患者さん
(5)高齢でインスリン分泌が少なくなっている患者さん(家族による投与も含む)
(6)訪問診療/訪問看護、来院での週1回投与が可能な患者さん(医療従事者が投与)
(7)1型糖尿病で毎日のインスリン注射ができない患者さん(高血糖や糖尿病性ケトアシドーシス回避のために)
綿田氏は、「今後、こうした患者さんを対象に使用されると考えられるが、実臨床での効果を検討しつつ、学会などで知見を集積していきたい」と展望を語り、講演を終えた。
(ケアネット 稲川 進)