アルツハイマー病は、根治不能な疾患であるが、軽度認知障害(MCI)の段階で仮想現実(VR)を用いた介入を行うことで、認知症の進行を遅らせる可能性がある。中国・上海交通大学のQin Yang氏らは、MCI高齢者におけるVRの有効性を明らかにするため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Medical Internet Research誌2025年1月10日号の報告。
2023年12月30日までに公表された研究をWeb of Science、PubMed、Embase、Ovidよりシステマティックに検索した。対象研究は、55歳以上のMCI高齢者の認知機能、気分、QOL、体力に対するVRベース介入を自己報告で評価したRCT。調査されたアウトカムには、一般的な認知機能、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能、言語機能、視空間能力、うつ病、日常生活能力、筋力パフォーマンス、歩行/バランスなどを含めた。2人の独立した担当者により、特定された論文と関連レビューの検索結果およびリファレンスリストをスクリーニングした。介入の構成要素と使用された実施および行動変化の手法に関するデータを抽出した。適格基準を満たした場合に、メタ解析、バイアスリスク感度分析、サブグループ解析を実施し、潜在的なモデレーターを調査した。エビデンスの質の評価には、GRADEアプローチを用いた。
主な結果は以下のとおり。
・18研究、MCI高齢者722例を分析に含めた。
・VR介入は、VR認知トレーニング、VR身体トレーニング、VR認知運動デュアルタスクトレーニングがさまざまな没入レベルで行われていた。
・VR介入により、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能の有意な改善が認められた。
【記憶力】標準化平均差(SMD):0.2、95%信頼区間(CI):0.02〜0.38
【注意力/情報処理速度】SMD:0.25、95%CI:0.06〜0.45
【実行機能】SMD:0.22、95%CI:0.02〜0.42
・セラピストによる介入のないVR介入でも、記憶力だけでなく注意力/情報処理速度の改善が認められた。
・VR認知トレーニングにより、MCI高齢者の注意力/情報処理速度の有意な改善が認められた(SMD:0.31、95%CI:0.05〜0.58)。
・没入型VRは、注意力/情報処理速度(SMD:0.25、95%CI:0.01〜0.50)および実行機能(SMD:0.25、95%CI:0.00〜0.50)の改善に対し有意な影響を示した。
・一般的な認知機能、言語機能、視空間能力、うつ病、日常生活能力、筋力パフォーマンス、歩行/バランスに対するVR介入効果は、非常に小さかった。
・GRADEアプローチに基づくエビデンスの質は多様であり、特定の認知機能評価に対しては中程度、その他の評価では低であった。
著者らは「MCI高齢者に対するVR介入は、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能の改善に有効であることが示唆された。エビデンスの質は中程度〜低であったことから、これらの結果を確認し、新たな健康関連アウトカムについても検討するうえで、さらなる研究が必要とされる」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)