睡眠時無呼吸症候群の鑑別で見落としがちな症状とは?

提供元:ケアネット

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公開日:2025/02/26

 

 帝人ファーマは「家族となおそう睡眠時無呼吸」と題し、1月27日にメディア発表会を行った。今回、内村 直尚氏(久留米大学 学長)が「睡眠時無呼吸症候群とそのリスク」について、平井 啓氏(大阪大学大学院人間科学研究科/Cobe-Tech株式会社)が「睡眠医療のための行動経済学」について解説した。

睡眠時無呼吸症候群の現状

 まず、内村氏は睡眠障害について、国際分類第3版に基づく診断分類を示した。

・不眠症 
・睡眠関連呼吸症候群 
・中枢性過眠症 
・概日リズム睡眠覚醒症候群 
・睡眠時随伴症群 
・睡眠時運動障害群 
・その他の睡眠障害 
・身体疾患及び神経疾患に関する睡眠障害

 このなかの睡眠関連呼吸症候群に該当する睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、または睡眠1時間あたりに無呼吸および低呼吸が5回以上起こる状態を指す。国内の潜在患者数は940万人以上で、30~60代の約7人に1人が該当するというが、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)治療を受けている患者数は約73万人と、潜在患者の10%に満たないと言われている。

 治療法の第一は生活習慣の是正(睡眠時の体位の工夫、禁煙、禁酒)や減量であるが、日中の眠気などの臨床症状が強い中~重症例に用いるCPAPをはじめ、無呼吸低呼吸指数(AHI)による重症度分類や併存疾患に応じたさまざまな方法がある。現在国内で保険適用となっているのは、OA(口腔内装置)療法(CPAP治療の適応とならない軽~中等症)、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(CPAP、OAいずれも使用できない症例)に加え、舌下神経電気刺激療法がある。

医師が押さえておきたい患者像

 続いて、SAS患者の主な特徴としては、喫煙者、寝酒の習慣化、肥満傾向、そして高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの既往歴を有することなどが挙げられるが、痩せている女性でも疾患リスクを有している点には注意が必要である。その理由について同氏は、「SASの発症は顔などの形態的特徴が強く関わっているため、頸が短い・太い、頸の周囲に脂肪が付いている、下顎が小さい、下顎が後方に引っ込んでいる、歯並びが悪い、舌や下の付け根が大きい患者では夜間の血中酸素濃度が低下しやすいため」と指摘。患者自身ができるセルフチェックについても触れ、「鏡の前で大きく口を開けて舌を下に出した時、口蓋垂が見えていない場合には、形態的に上気道が狭い可能性がある」と解説した。さらに同氏はSASによる疾患発症リスクについても言及し、「睡眠の障害はもちろん、血中酸素濃度の低下がさまざまな疾患リスクの引き金となる。たとえば、高血圧症の発症リスクは1.42~2.89 倍1)、脳卒中においては1.75~3.3倍2)にもなる。また、CPAPを装着することで、致死的心血管イベントの累積発生率3)がとくに重症OSA群で抑制される」と述べ、「起床時の頭痛、薬物治療を行っても改善されない夜間高血圧症例の場合にもSASの可能性4)があることから、そのような症状を有する患者には検査を勧めてほしい」ともコメントした。

患者・家族と医療者がすれ違う理由と5つのバイアス

 続いて平井氏が行動経済学の側面から解説した。同氏は患者と医療者では「見えている世界や景色が違う」とし、「慢性疾患は患者にとって、森の中を抜けていくような感覚だが、家族や医療者は俯瞰的に森全体を捉え、将来リスク、出口がどこにあるのかが見えている。患者は主観的な世界観を、家族や医療者は合理的な世界観を持っている」と説明した。また、行動経済学的に人の意思決定は常に合理的であるわけではなく、バイアスが生じることがあり、「通常、人間の考え方は損失回避的であり、それが自然な反応であることを医療者も理解が必要」ともコメントした。

<5つのバイアス>
・現在バイアス:将来の利益よりも、現在の利益を優先してしまう
・利用可能性バイアス:意思決定において身近で目立つ情報を優先して用いてしまう
・現状維持バイアス:自分の慣れた方法を変えることに大きな抵抗を感じる
・正常性バイアス:自分は大丈夫だと思う
・確証バイアス:自分にとって都合のよい情報を集める

 さらに、患者と医療者のすれ違い解消法として、フレーミング効果やリバタリアン・パターナリズム**の活用を推奨し、今回のセミナーにゲスト出演した北斗 晶さんと佐々木 健介さん夫妻が、それぞれの睡眠時の状況を説明するために二人で一緒に病院を受診した点について、「コミットメントとナッジの視点から非常に有用である」と同氏は評価した。
*同じ現象のポジティブな側面とネガティブな側面のどちらに焦点を当てるかで意思決定が変化すること。
**「選択の自由」を尊重しつつも、望ましい行動を自然に選びやすくする環境や仕組みを提供する考え方。ナッジとは行動を始めやすくし、選択のしやすさや選択肢を提供すること。一方のコミットメントは行動を継続させ、実行を確実にする。

 なお、帝人ファーマはいびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)に悩む方のためのポータルサイト「睡眠時無呼吸なおそう.com」5)を運営しており、これを利用することで、セルフチェックや専門の医療機関を検索することが可能である。

■参考文献
1)Peppard PE, et al. N Engl J Med. 2000;342:1378-1384.
2)Good DC, et al. Stroke. 1996;27:252-259.
3)Marin JM, et al. Lancet. 2005;365:1046-1053.
4)日本循環器学会編:2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
5)帝人ファーマ:睡眠時無呼吸なおそう.com
日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
大竹文雄ほか. 医療現場の行動経済学. 2024. 東洋経済新報社


(ケアネット 土井 舞子)