都会の喧騒を離れて田舎に移り住むことは、穏やかで幸福な暮らしをもたらすように思うかもしれないが、必ずしもそうではないようだ。米ヒューストン大学心理学分野のOlivia Atherton氏らが実施した研究で、農村部に住んでいる人は都会に住んでいる人よりも、生活に対する満足度が高いわけではなく、また、生きていく上でより多くの目的や意味を見出しているわけでもないことが示された。さらにこれらの人では都会の人よりも、不安や抑うつを抱えやすく、神経症的傾向も強いことも示唆されたという。この研究結果は、「Journal of Personality」に2月1日掲載された。
この研究では、Midlife in the United States(MIDUS)とHealth and Retirement Study(HRS;健康と退職に関する研究)の2件の大規模縦断研究のデータを用いて、都会に住む人と農村部に住む人との間で、人間の性格分析理論であるビッグファイブ理論を構成する5つの因子(以下、ビッグファイブ)やウェルビーイング〔心理的ウェルビーイング(目的意識や自己受容、環境制御力などで評価)、生活満足度〕のレベルや推移に違いがあるのかが検討された。ビッグファイブとは、開放性、誠実性(セルフコントロールや責任感に関する因子)、外向性、協調性、神経症的健康を指す。それぞれの試験期間中に試験参加者は、ビッグファイブに基づく性格特性の自己診断と、心理的ウェルビーイングおよび生活満足度に関する自己測定を、MIDUSでは3回、HRSでは4回行い、その結果を報告していた。
その結果、全体的な傾向として、農村部に住む人では都会に住む人に比べて、開放性、誠実性、心理的ウェルビーイングのレベルが低く、神経症的傾向が強いことがうかがわれた。農村部に住む人と都会に住む人との間の差は、心理的ウェルビーイングについては、HRS参加者とMIDUS参加者の双方で有意であったが、開放性、誠実性、神経症的傾向についてはHRS参加者でのみ有意であった。社会人口学的特性(性別や年齢など)と社会的ネットワーク(配偶者/パートナーの有無など)を考慮して解析すると、開放性と誠実性については有意ではなくなったが、神経症的傾向については有意なままであった。心理的ウェルビーイングの差は、社会人口学的特性と社会的ネットワークを考慮して解析すると、HRS参加者とMIDUS参加者の双方で有意ではなくなった。その他の因子(外交性、協調性、生活満足度)については、農村部に住む人と都会に住む人との間で有意な差は認められなかった。
研究グループは、このような結果となった理由の一つとして、農村部でのメンタルヘルスの専門家の不足を挙げている。また、農村部では2010年以来、病院の閉鎖が相次いだことが原因で、メンタルヘルスの専門家を含む医療従事者の数が減少したことも指摘している。研究グループによると、本研究では、農村部に住む人の方が心理的サービスを必要としていることが示されたが、米国では農村部の85%でメンタルヘルスの専門家が不足しているという。
Atherton氏は、「遠隔地でのメンタルヘルス関連サービスへのアクセスを改善し、農村コミュニティーの特徴と価値をどのように活用すれば、心理的健康を促進することができるのかを特定することが重要だ」と語る。
さらにAtherton氏は、「農村の健康格差が個人、家族、コミュニティーに与える広範囲な影響を考慮すると、格差の原因となっている心理的、社会的、構造的メカニズムを明らかにし、そのようなメカニズムに対する介入方法を特定して、農村部に住む米国人の健康を改善することが急務だ」と同大学のニュースリリースで述べている。
[2023年3月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら