米軍のパイロットと地上要員はがん罹患リスクが高いとする、米国防総省のレポートが公表された。同国のレッドリバーバレー戦闘機パイロット協会のVince Alcazar氏は、この結果に関するAP通信の取材に対して、「軍のパイロットのがんリスクが高いことに対する懐疑的な考え方を捨て、この問題に積極的に取り組むべくかじを切る時期は、とっくに過ぎている」とコメントしている。
米国議会は2021年、国防権限法(NDAA)に基づき、軍のパイロットと地上要員の発がん、およびがん死亡リスクの調査研究を義務付けた。今回公表されたデータはその結果として報告されたもの。1992~2017年に米軍で勤務したパイロット15万6,050人と地上要員73万7,891人を対象に、がんの罹患とがん死の発生を追跡する調査が行われた。
解析対象者の年齢や性別は、パイロットが中央値41歳、男性93.2%、地上要員は同26歳、90.1%。所属している軍は、パイロットは空軍70.6%、海軍21.1%、地上要員は同順に47.8%、38.3%。がん死に関する追跡終了時点の年齢は、パイロットが中央値48歳、地上要員は同41歳だった。米国の一般人口を比較対象として、全てのがんの罹患とがん死リスク、および12種類の個別のがんの罹患とがん死リスクを検討した。
解析の結果、パイロットは全てのがんの罹患リスクが24%高く〔標準化罹患比(SIR)1.24(95%信頼区間1.21~1.27)〕、地上要員は3%ハイリスクだった〔SIR1.03(同1.01~1.05)〕。がん種別に見ると、パイロットではメラノーマ〔SIR1.87(1.74~2.00)〕や甲状腺がん〔SIR1.39(1.20~1.61)〕のリスクの高さが目立ち、地上要員では脳・神経系のがん〔SIR1.19(1.06~1.32)〕や甲状腺がん〔SIR1.15(1.04~1.27)〕のリスクが特に高かった。反対に、パイロット、地上要員ともに肺・気管支がん(SIRがパイロットは0.29、地上要員は0.66)〕や大腸がん(同順に0.56、0.75)などは低リスクであることが分かった。
一方、がん死リスクについては、パイロット〔標準化死亡比(SMR)0.44(0.41~0.46)〕、地上要員〔SMR0.65(0.63~0.66)〕ともに、一般人口より低いことが明らかになった。がん種別に見た場合、がん死リスクが一般人口より有意に高いがんはなかった。
この結果について国防総省は、「追跡終了時点の年齢が比較的若いため、高齢の退役軍人などを含めて解析した場合、異なる結果となる可能性がある」としている。一方で、「本調査には、喫煙・飲酒習慣、家族歴などの未調整の交絡因子が複数存在する。よって明らかになった結果が、軍のパイロットや地上要員として勤務することが原因で、がんリスクが上昇するという因果関係を示すものではない」とも述べている。
なお、NDAAに基づく今回の調査は第1ステップとして実施された。当初の計画では、第1ステップの調査でパイロットや地上要員のがんリスクが高いことが示された場合、そのリスク因子を特定するための第2ステップの研究を行うことになっている。ただしレポートには、第2ステップの研究に進む前に、予備役や州兵などを対象とした疫学調査により、発がんやがん死リスクのより正確な把握が必要と記されている。
[2023年3月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら