加齢とともに白髪が増えるのは、髪の色を作る幹細胞が毛包の中で「動けなく」なり、機能しなくなるためであることが、新たな動物実験から明らかになった。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部皮膚科・細胞生物学科の伊藤真由美氏らによる研究で、「Nature」に4月19日掲載された。
毛髪の色は、毛包のバルジ領域に存在するメラニン細胞幹細胞(McSC)によってコントロールされている。毛髪が成長期に入ると、McSCは活性化されて下方へ移動し、毛髪を黒や金などにするメラニン色素を生成するメラノサイト(色素細胞)へと分化し、その色素が取り込まれて毛髪に色が付く。毛髪が白くなるのは、McSCをメラノサイトに分化させるシステムが機能しなくなるためである。今回、伊藤氏らは、このMcSCシステムが機能不全に陥るメカニズムを解明するために、マウスを用いた実験を行った。
実験では、マウスの毛を引き抜いて再生させることを繰り返して、強制的に毛を老化させた。その結果、このサイクルを繰り返すにつれてMcSCの数が増え続けて、バルジ領域に詰まっていくことが明らかになった。バルジ領域にMcSCが詰まっている毛包の割合は、毛を引き抜く前の10%から、強制的に老化させた後ではほぼ50%にまで増加していた。通常であれば、McSCは発育中の毛包内のさまざまなコンパートメントを行き来し、その過程でさまざまなタンパク質シグナルにさらされて成熟していく。しかし、バルジ領域に詰まったMcSCはそのようなシグナルを受け取れないため、メラノサイトへ分化することができないと研究グループは説明している。これに対して、バルジ領域とそれより下方の毛芽領域との間を行き来し続けたMcSCは、メラノサイトへ分化して色素を生み出す能力を維持し続けた。
この他にも、McSCはメラノサイトに分化する過程で、McSCとメラノサイトの中間段階であるTA(transit-amplifying)細胞から、再度、幹細胞に戻ることができることも明らかになった。これは、通常の幹細胞には備わっていない機能であるという。
こうした結果から伊藤氏は、「McSCの機能の喪失が、白髪の原因かもしれない」との見方を示す。動物実験の結果が、必ずしも人間にも当てはまるとは限らない。しかし、研究論文の筆頭著者であるNYUランゴンヘルスのQi Sun氏は、「今回の研究は、McSCがどのように毛髪に色を付けるのかについての基本的な理解を深めるものだ」と話す。
Sun氏はさらに、「今回の実験で発見されたメカニズムを考えると、詰まって動けなくなったMcSCが、人間の毛包でも認められる可能性がある。もしそうであれば、そのようなMcSCが発育中の毛包のコンパートメント間を再び移動できるようにすることで、ヒトの白髪を元の髪色に戻したり、白髪を予防したりなども可能になるかもしれない」との見方を示している。
[2023年4月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら