白熱電球を発明したトーマス・エジソンは、短時間の昼寝によって自身が持つ創造力が高まると考えていたが、この考えは間違っていないようだ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピューターサイエンス・神経科学分野のKathleen Esfahany氏らの研究から、睡眠と覚醒の間を漂っている睡眠段階(入眠期)に、創造的思考が特に豊かになることが明らかになった。この研究の詳細は、「Scientific Reports」5月15日号に掲載された。
以前から入眠期、具体的には覚醒から睡眠へと移行する「N1」と呼ばれるノンレム睡眠の最初の段階は、創造力を高めると考えられてきた。しかし、それを裏付ける科学的な証拠は少なかった。そこでEsfahany氏らは今回、1)仮眠が本当に創造力を向上させるのか、2)入眠期に音声ガイドにより特定の指示を与えることでその創造力を形作り、かつ向上させることができるのか、の二つの疑問に対する答えを明らかにするために、研究を実施した。
研究グループは、健康な成人49人(平均年齢27歳)を対象に、過去の研究で開発した「Dormio(ドルミオ)」と呼ばれる手袋型のデバイスを用いて実験を行った。ハイテク手袋とでも呼ぶべきこのデバイスは、皮膚の電気活動に基づきN1の3つの指標(筋肉の緊張度の変化、心拍数、皮膚電気活動)を測定し、そのデータをリアルタイムでスマートフォンやコンピューターのアプリケーション(アプリ)に送信する。アプリは、デバイスを着用した人がN1状態に入ると、特定のテーマの夢を見るように促す。デバイス着用者が次の睡眠段階に入り始めるとアプリはその人を起こし、夢の内容を報告するよう求め、その内容を記録する。
対象者は、1)音声ガイダンスあり/仮眠群、2)音声ガイダンスなし/仮眠群、3)音声ガイダンスあり/仮眠なし群、4)音声ガイダンスなし/仮眠なし群の4群に割り付けられた。仮眠群には45分間の仮眠時間が割り当てられ、仮眠なし群はこの間起きていた。音声ガイダンスあり/仮眠群は、入眠後に起こされて夢の内容を報告した後に、「木」を思い浮かべるようにとの指示を受け、再び眠りについた。一方、音声ガイダンスなし/仮眠群も、同様のプロセスで実験が行われたが、再び眠るときには、頭に思い浮かんだことに注目するようにと指示された。音声ガイダンスあり/仮眠なし群と音声ガイダンスなし/仮眠なし群は、仮眠を取ることなく45分間起きていたが、前者は「木」について考えるように、後者は頭に思い浮かんだことに注目するようにとの指示を受けた。
このような45分間の実験の後、全ての参加者が創造性に関する三つの課題に取り組んだ。一つ目の課題は、「木」という単語が含まれるストーリーの創作、二つ目の課題は、「木」の創造的で代替的な活用法のリストアップ、三つ目の課題は、「木」「森林」などの名詞を見て最初に思いつく動詞を答えるというものだった。
その結果、創作したストーリーの創造性のスコアが最も高かったのは、音声ガイダンスあり/仮眠群であり、また、音声ガイダンスなし/仮眠群も、仮眠を取らなかった残りの2群に比べて、ストーリーの創造性のスコアが高いことが明らかになった。さらに、拡散的思考の指標となる他の二つの課題のスコアが最も高かったのも、音声ガイダンスあり/仮眠群であった。三つの課題をまとめて解析すると、音声ガイダンスあり/仮眠群の創造性は、音声ガイダンスなし/仮眠なし群と比べて78%優れているだけでなく、音声ガイダンスなし/仮眠群と比べても43%優れていると評価された。
この研究に関与していない専門家で、英キングス・カレッジ・ロンドンのIvana Rosenzweig氏は、N1という覚醒から睡眠に移行する途中のまどろみの状態に秘められた力は、長年にわたって関心の的となってきたことを認めている。その一方で、現時点では脳のどのネットワークや生理学的プロセスが関与しているのかについてはほとんど明らかにされていないことなどを指摘し、「睡眠の神経科学は21世紀の最も興味深い研究トピックになるのではないか」と話している。
[2023年5月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら