米ブラウン大学神経科学分野のCatherine Kerr氏は、自身ががん患者となったときに中国の伝統的な健康法である気功を実践し、倦怠感が軽減したことから、気功ががんサバイバーの倦怠感に与える影響について調べ始めた。Kerr氏は2016年に死去したが、彼女の研究を引き継いだ同大学脳科学がん研究所のStephanie Jones氏らが、気功とがんサバイバーの倦怠感に関するランダム化比較試験の結果を、「Integrative Cancer Therapies」に5月19日報告した。それによると、気功には、エネルギーを大量に消費する運動や栄養プログラムと同程度に倦怠感を軽減する効果のあることが明らかになったという。
がんサバイバーに倦怠感が生じるのは珍しいことではなく、研究グループによると、がんサバイバーの45%が中等度から重度の倦怠感を経験するという。研究グループは、「倦怠感は、痛みや吐き気、抑うつよりも大きな負担になり得る」と説明する。そして、運動が倦怠感の軽減に役立つことは明らかにされているが、倦怠感が生じている患者にとって運動をすること自体が非常にハードルの高いことだと指摘する。これに対して、深呼吸や時に瞑想と組み合わせてゆっくりと体を動かす気功は、がん患者に臨床的に意味のある改善をもたらすことが示唆されているという。
Jones氏らは今回、気功を標準的な運動と直接比較する、小規模ではあるが初めてのランダム化比較試験を実施した。対象者は、倦怠感を有する女性がんサバイバー24人(平均年齢57.3±9.0歳)で、本試験へ参加する8週間以上前に、手術、放射線療法、化学療法などの治療を終えていた。対象者のうちの11人は10週間にわたって気功を行う群に(気功群)、13人は筋力トレーニングや有酸素運動に加え、植物ベースの栄養指導と健康/心理的教育を行う群(運動/栄養群)に割り付けられた。気功群では、米国と中国で40年間気功を教えている指導者が選んだ、倦怠感のあるがんサバイバー向けのプログラムが行われた。
介入の結果、両群において、Functional Assessment of Cancer Therapy: Fatigue(FACIT-F、がん治療に伴う倦怠感の機能的評価)で評価した倦怠感が、事前に3と設定した臨床的に意義のある最小変化量の2倍以上、改善したことが明らかになった(気功群:7.068±10.30、運動/栄養群:8.846±12.001)。改善の程度に両群間で統計学的に有意な差は認められなかった。気功群ではさらに、気分や感情制御、ストレスに有意な改善が認められたのに対し、運動/栄養群では睡眠と倦怠感に改善が認められた。
同大学神経科学分野のChloe Zimmerman氏は、「この研究の大きな目標の一つは、がんの治療後の患者にどうやって元気になってもらうのか、それは、筋肉トレーニングなどよりははるかに穏やかな心身の鍛錬で実現できるのか、ということだと考えている」と述べる。研究グループによると、ヨガやマインドフルネス、太極拳なども含めた心身の鍛錬は、身体、感情、脳の健康に役立つ可能性があることから、ますます注目を浴びているのだという。
Jones氏らは目下、両群での治療効果には、脳と筋肉のコミュニケーションの変化が関係し、それが気功群と運動/栄養群では異なっているという仮説を検証するために、脳と筋肉の活動に関する電気生理学的な測定値の変化を調べている最中だという。
研究グループによると、すでにいくつかの病院では気功プログラムが提供されている。今回の研究には関与していないJun Mao氏が所属する米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターもそうした病院の一つだ。同氏は、「気功のメカニズムは、まだ完全には解明されていないが、気功のゆっくりとした体の動きや呼吸法、瞑想などの組み合わせが、心と体のつながりを育むのに役立つのだろう」と話す。同氏はまた、気功の一部の動作は、ベッドに寝たままでも行えることから、機能的な制約が多いがん患者にとって実践がより容易である点にも言及している。
[2023年5月31日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら