ガスコンロの使用によって室内の空気中のベンゼン濃度が上昇する可能性のあることが、米スタンフォード大学ドア・サステナビリティ学部のRobert Jackson氏らの研究で示された。ベンゼンは、白血病などの血液がんのリスク上昇に関連することが指摘されている化学物質だ。この研究からは、ガスコンロから排出されるベンゼンが家中に広がり、何時間も漂い続ける可能性も示唆された。この研究結果は、「Environmental Science & Technology」に6月15日掲載された。
研究グループによると、米国ではガスで調理する家庭が全家庭の3分の1以上を占めており、その数は約4700万世帯に上るという。Jackson氏らによると、これまでの研究は、調理器を使っていない状態のときに漏出したガスに注目したものが多かった。例えば、米ボストンの69地域のガス調理器と屋外のガス配管から排出された未燃焼ガスを採取して調べたところ、ベンゼンやトルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘキサンなど、少なくとも21種類以上の有害な大気汚染物質がガスに含まれていたとする研究結果が、2022年6月に「Environmental Science & Technology」で報告されている。さらに、室内のガスコンロからのメタン排出量の約4分の3は、非使用時のコンロやその近くの配管から排出されていたとする研究結果も2022年1月に同誌で報告されている。
これに対して、Jackson氏らの今回の研究は、ガスコンロおよびプロパンガスコンロ使用時のガス燃焼によるベンゼンの排出量を初めて調べたもの。同氏らは、米カリフォルニア州とコロラド州の87世帯に設置された、強火に設定したガスコンロ54台とプロパンガスコンロ11台、高温(約177℃)に設定したガスオーブン47台とプロパンガスオーブン9台から排出されるベンゼンの量を測定し、電気調理器からの排出量と比較した。
その結果、これらのガス調理器の使用に伴う1分間のベンゼン排出量は平均2.8〜6.5μgであったのに対し、強に設定した電気コイルや赤外線を用いたコンロと高温に設定した電気オーブンからのベンゼン排出量はそれぞれ平均0.28μgと0.23μgにとどまることが明らかになった。IH調理器ではベンゼンは検出されなかった。また、ガス調理器の使用に伴う燃焼ガスからのベンゼン排出量は、ガス調理器から漏れた未燃焼ガス中の排出量よりも数百倍高いことも判明した。さらに、ガスコンロとプロパンガスコンロの使用により排出されるベンゼンは家中に広がり、コンロの使用後数時間にわたって、寝室のベンゼン濃度が慢性的な健康問題を引き起こし得るレベルで残存する可能性も示された。
こうした結果を受けてJackson氏は、「油田や製油所で発生する炎や高温環境で生成されるベンゼンが、家庭のガスコンロの炎でも生成されることが判明した」と話す。また、「十分な換気により汚染物質の濃度を下げることはできるが、換気扇にはベンゼンへの曝露を減らす効果はない場合が多いことも分かった」と付け加えた。
天然ガスを燃焼させると二酸化窒素や、呼吸器症状の増悪をもたらす微小粒子状物質などの汚染物質が放出されることが分かっている。2013年に報告されたメタ解析では、ガスコンロが設置された家庭の子どもは、ガスコンロがない家庭の子どもと比べて喘息のリスクが42%高いことが示されている。また、2022年に報告された解析では、米国の小児喘息の約13%はガスコンロに起因していると推定されていた。
Jackson氏らは、ガス調理器から排出される汚染物質への曝露量を減らす対策として、レンジフードの使用や調理中は窓を開けることに加え、ホットプレートや電気ケトル、オーブントースター、スロークッカーなどの電気調理器具の利用を推奨している。
[2023年6月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら