脳に電気ショックを与えることで、脳卒中による脳へのダメージを抑えることができるようだ。高精細(HD)陰極経頭蓋直流電気刺激(C-tDCS)と呼ばれる非侵襲的な治療法により、急性虚血性脳卒中(AIS、脳梗塞)の原因となった血栓周辺の血流が増加し、脳にそれ以上のダメージが及ぶのを防げる可能性のあることが明らかになった。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)David Geffen School of Medicine神経学分野のMersedeh Bahr-Hosseini氏らが実施したこのパイロット試験は、「JAMA Network Open」に6月21日掲載された。
Bahr-Hosseini氏らの研究は、脳梗塞に対するHD C-tDCSによる治療の有効性を、ランダム化比較試験で初めて検討したもの。対象は、脳梗塞の発症から24時間以内に治療を受け、ペナンブラの存在が画像検査で確認され、再灌流療法の適格外であった患者10人。ペナンブラとは、脳梗塞により血流が低下しているものの細胞死には至っていないため、早期に血流を再開させれば回復が見込める脳の領域のこと。対象者のうちの7人は梗塞の生じた部位に電流を流す群(平均年齢75歳、電気刺激群)、3人はシャム(偽)刺激を流す群(平均年齢77歳、偽刺激群)にランダムに割り付けられた。まず4人(電気刺激群3人と偽刺激群1人)に1mAのHD C-tDCSまたは偽刺激を20分間流し、次いで、6人(電気刺激群4人と偽刺激群2人)に2mAのHD C-tDCSまたは偽刺激を20分間流した。
全対象者が治療を途中で中断することなく完了した。電気刺激を与えた部位の皮膚に変色や発疹は認められなかった。治療により、電気刺激群では、低灌流領域が中央値で100%〔四分位範囲(IQR)46〜100%〕減少したのに対し、偽刺激群では325%(同112〜412%)増加していた。また、電気刺激群のペナンブラの救済率は中央値で66%(IQR 29〜80.5%)だったのに対し、シャム群では0%(同0〜0%)だった。さらに、脳画像検査からは、電気刺激群で治療後に血流が中央値で64%増加し、電気刺激が強いほど血流の増加の程度も大きかったが、偽刺激群では逆に、血流が中央値で4%減少したことが示された。
こうした結果を受けてBahr-Hosseini氏は、「この治療法は、緊急時に効率的に使用できる可能性がある。忍容性も高く、脳梗塞によるダメージを受けた組織を回復させる上で、非常に有望な手段となり得ることが示された」と語る。その上で、「うまくいけば近い将来、この治療法の安全性と有効性をさらに検討することができるだろう」と話している。
Bahr-Hosseini氏は、「この治療法は、脳の血流を促進することによって効果を発揮するが、電流に反応するのは脳組織や脳神経細胞だけではないとわれわれは考えている。血管も、電流に対して通常は血管の拡張という形で反応する。そうすることで、より多くの血液が脳に流れ込み、血管を損傷から守ることができる」と話す。このような血流の増加と血管の拡張は、脳梗塞の原因となっている血栓を溶解する可能性もあるという。さらに同氏は、電気刺激は、脳への攻撃に反応して脳細胞が起こしている過剰な神経活動を停止させ、脳組織を保護する可能性もあるとの考えも示している。
なお、脳梗塞に対する主な治療法は、詰まっている血栓を薬剤により溶かす血栓溶解療法と、デバイスを使って直接回収・除去する血栓回収療法が一般的だ。しかし、Bahr-Hosseini氏によると、脳梗塞患者の多くはこれらの治療法が適応外であり、これらの治療を受けた患者でも、その20〜30%程度に障害が残るという。
米ロング・アイランド・ジューイッシュ医療センターのRichard Libman氏は、「この研究結果は非常に興味深く、また、脳梗塞の革新的な治療法として有望な可能性がある」と期待を寄せる。同氏は、HD C-tDCSが現行の血栓溶解療法や血栓回収療法と併用しても何ら問題がない点についても指摘。「この治療法の有効性が確立されれば、脳梗塞に対する標準治療の一つになる可能性もある」との見方を示している。
[2023年6月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら