家庭用血圧計による血圧測定は、長期的には人種や民族に関わりなく脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患(CVD)の発症を抑制し、医療費削減につながることが、上海交通大学(中国)医学部公衆衛生学分野教授のYan Li氏らによる研究で示された。Li氏は、「家庭での血圧モニタリングにより、早期発見、適時の介入、合併症の予防が容易になり、血圧コントロールの改善と健康転帰の改善につながる」と話している。詳細は、「American Journal of Preventive Medicine」に5月12日掲載された。
今回の研究でLi氏らは、まず米国で実施された電話調査である行動リスク因子サーベイランスシステム(Behavioral Risk Factor Surveillance System;BRFSS)の2019年のデータと、公表されている文献データを用いて、高血圧を持つ米国成人の健康および人口統計学的特性を抽出し、CVDのマイクロシミュレーションモデルで使用するパラメーターを推定した。その上で、このモデルにより、家庭用血圧計によるモニタリングが、心筋梗塞や脳卒中の発症と医療費削減に与える長期的な影響を、通常の血圧に対するケア(診療所での血圧モニタリング)との比較で検討した。
その結果、診療所での血圧モニタリングに比べて、家庭での血圧測定を導入することにより、20年間で心筋梗塞の発生を4.9%、脳卒中の発生を3.8%減らすことができ、医療費は1人当たり平均7,794ドル(1ドル139円換算で約108万3,400円)削減されることが予測された。家庭での血圧測定を導入することで得られるこのようなベネフィットは、黒人、女性、地方に住む人での方が、白人、男性、都市部に住む人よりも大きかった。例えば、家庭での血圧測定を導入することで減少が見込める心筋梗塞の発生件数(100万人当たり)は、地方では2万1,278件であるのに対し、都市部では1万1,012件であった。Li氏らによると、コントロールされていない高血圧は地方でより多く認められるという。また、地方に住む人は、プライマリケアサービスを受ける際にも、都市部に住む人よりも大きな障壁に直面しがちだ。
高血圧とは、収縮期血圧(上の血圧)が130mmHg以上、拡張期血圧(下の血圧)が80mmHg以上、またはこれらの数値を抑えるために服薬している場合を指す〔注:日本では、収縮期血圧と拡張期血圧のどちらか一方、あるいは両方が140/90mmHg以上(家庭用血圧計では135/85mmHg以上)の場合と定義〕。高血圧の診断や血圧モニタリングは、一般的には診療所で行われるが、多くの欠点を伴う。例えば、患者の診療回数が不十分なために問題を見逃してしまう可能性がある。また、診療所でのみ血圧が上昇する「白衣高血圧」、あるいは診療所では血圧が正常域でもそれ以外の場所では上昇する「仮面高血圧」が患者に生じる可能性もある。
研究グループは、家庭で定期的に血圧を測定することで、診療所で散発的に測定するよりも、より包括的で正確なデータを得ることができると指摘する。論文の共著者である、米ニューヨーク大学(NYU)ロングアイランド医学部人口保健・医療サービス研究センターのDonglan Zhang氏は、「米国では、成人のほぼ半数(47%)が高血圧に罹患しており、また、CVDでは健康格差が根強いことを考慮すると、効果的で医療費の削減につながる方法の普及に努めることは非常に重要だ」と述べる。
Zhang氏は、「家庭で血圧モニタリングを行うことで、患者は自分の慢性疾患の管理にこれまで以上に積極的に関われるようになる。われわれの研究結果は、この介入をより広範に実施することを支援する医療制度や支払者にとって、説得力のあるエビデンスとなるものだ」と話している。
なお、本研究は、米国立マイノリティ健康格差研究所(NIMHD)および米国立心肺血液研究所(NHLBI)の支援を受けて実施された。
[2023年7月18日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら