2杯目のアルコールに手を出す前に、新たに報告された研究結果について、少し考えてみた方が良いかもしれない。飲酒量が多い人ほど、心臓の周りの脂肪蓄積が多いという。米ウェイクフォレスト大学のRichard Kazibwe氏らによる研究の結果であり、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に9月8日掲載された。同氏は、「このような心臓への異所性脂肪は、成人の主な死亡原因である冠動脈性心疾患だけでなく、心不全や心房細動などの心臓病のリスク上昇と関連している」と話している。
エネルギーの貯蔵庫である脂肪は、通常であれば皮下脂肪を中心とする脂肪組織に蓄積される。しかし、食べ過ぎや運動不足が続いていると、内臓周囲や筋肉、肝臓など、本来は脂肪がたまりにくい所にも脂肪が蓄積されるようになる。そのような脂肪は「異所性脂肪」と呼ばれる。アルコールも異所性脂肪の蓄積を増やすリスク因子の一つである可能性があるが、これまでのところ飲酒量と異所性脂肪の関連は十分検討されていない。これを背景としてKazibwe氏らは、「アテローム性動脈硬化症の多民族研究(MESA)」のデータを用いた横断研究を行った。
MESA参加者6,756人(平均年齢62.1±10.2歳、女性47.2%)のうち、6,734人は胸部CT検査、1,934人は腹部CT検査を受けており、その結果から、皮下脂肪や内臓脂肪のほかに、心膜(心臓周囲)や肝臓、筋肉などの脂肪蓄積を評価し得た。参加者全体を1日当たりの飲酒量により、1杯未満を「軽度飲酒」、1~2杯を「中等度飲酒」、2杯超を「大量飲酒」、および「生涯全く飲酒していない」群に分類し、かつ、過去1カ月間に1機会当たり5杯以上飲んだことがある場合を「暴飲」と定義した。
年齢や性別のほかに摂取エネルギー量や身体活動量も含む交絡因子を調整後、「生涯全く飲酒していない」群を基準として、大量飲酒群は心膜の異所性脂肪が15.1%(95%信頼区間7.1~27.7)有意に多く蓄積していて、肝臓の異所性脂肪も3.4%(同0.1~6.8)有意に多かった。全体として、飲酒量と異所性脂肪の蓄積との関係はJ字型のパターンを示した。
このほかに、軽度・中等度飲酒者を基準とする検討で、暴飲に当てはまる飲み方をしていた人は、心膜の異所性脂肪が7.5%(3.0~12.2)、筋肉の異所性脂肪が11.0%(同3.3~19.3)、有意に多く蓄積していた。なお、アルコール飲料の種類別の解析からは、ワインよりビールを好む人で、異所性脂肪がより多く蓄積している傾向が認められた。
Kazibwe氏は、「飲酒は肥満のリスク因子であり、アルコールが代謝に影響を与えることは古くから知られていたが、今回の研究で新たに、アルコールは全身のさまざまな部位に脂肪の蓄積を促すことが示唆された」と述べている。では、飲酒を控えれば、異所性脂肪は解消されるのだろうか?
同氏によると、「肝臓の異所性脂肪についてはその可能性があるが、心臓周囲の異所性脂肪も減少するかどうかは現時点では不明だ」という。ただし、「飲酒自体が心臓病のリスクを高めるため、飲酒量を減らすことは良いことだ」と付け加えている。
この研究には関与していない、米ノースウェル・ヘルス・バス・ハート病院のBenjamin Hirsh氏は、示された結果に驚くことなく、「アルコールは脂肪蓄積を促進する高中性脂肪血症の最大のリスク因子だ。過剰な脂肪は炎症を惹起したり、血管内のプラーク蓄積のリスクを高めたりする」と解説。「飲酒量が多いほど、心臓や肝臓に問題を起こしやすくなる。端的に言えば、飲酒量が少なければ少ないほど健康には良い」と話している。
[2023年9月18日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら