早産児では、出産後に母子をつないでいるへその緒(臍帯)を固定した上で切断する「臍帯結紮(けっさつ)」を、出生の30秒後以後、なるべく遅らせて行うと、出生直後に臍帯結紮を行った場合と比べて退院までに死亡するリスクが低下することを示した2つの解析結果が、「The Lancet」に11月14日掲載された。これらの論文の筆頭著者で、シドニー大学(オーストラリア)のAnna Lene Seidler氏は、「われわれの解析結果は、臍帯結紮を遅らせることで一部の早産児の命を救える可能性を示した最良のエビデンスだ」と話している。
Seidler氏によると、早産で生まれる子どもの数は世界全体で年間約1300万人に上り、そのうち100万人近くが生後間もなく死亡しているという。研究者らは、臍帯結紮を遅らせることで胎盤から赤ちゃんへ血液が流れ、その間に赤ちゃんの肺が空気で満たされて呼吸に移行しやすい状態になる可能性があると述べている。また、血流が延長されることで、乳児の鉄欠乏症のリスクが低下する可能性もあるという。
1つ目の解析では、20件の臨床試験に登録された合計3,260人の早産児を対象に、出生後30秒以上経過してから臍帯結紮が行われた早産児(臍帯遅延結紮群)と出生後すぐ(10秒以内)に臍帯結紮が行われた早産児(臍帯早期結紮群)の間で院内死亡リスクが比較された。臍帯遅延結紮群での臍帯結紮のタイミングには、出生の30秒後から3分以上後までが含まれていた。解析の結果、院内死亡率は臍帯早期結紮群の8%に対して臍帯遅延結紮群では6%と低かった。臍帯早期結紮群に比べて臍帯遅延結紮群での院内死亡のオッズ比は0.68(95%信頼区間0.51〜0.91)であった。
2つ目の解析では、47件の臨床試験に登録された合計6,094人の早産児を対象に、臍帯結紮のタイミング別に院内死亡リスクが比較された。臍帯結紮のタイミングは、1)早期結紮群(出生直後)、2)短期遅延結紮群(出生後15秒以上から45秒未満の間)、3)中期遅延結紮群(出生後45秒以上から120秒未満の間)、4)長期遅延結紮群(出生後120秒以上経過後)の4群に分類した。その結果、臍帯結紮のタイミングが遅ければ遅いほど、院内死亡リスクは低下することが明らかになった。早期結紮群に比べて長期遅延結紮群での院内死亡のオッズ比は0.31(95%信頼区間0.11〜0.80)だった。
論文の共著者で統計解析を主導したシドニー大学のSol Libesman氏は、「われわれの解析から分かったのは、出生後早期に臍帯結紮を行うべき理由はなく、現時点で入手できるエビデンスに基づけば、出生後2分以上経過してからの臍帯結紮が、早産児が出生から間もない時期に死亡するリスクを下げる最良の戦略であることだ」と話している。
研究グループによると、現在、正期産で生まれた乳児に対しては1分あるいは2分経過してからの臍帯結紮が推奨されている。しかし、早産児に対しても臍帯遅延結紮が有用であるかどうかについては先行研究では明確に示されておらず、米国のガイドラインや国際ガイドラインでも相反する推奨が示されていた。今回報告された2つの研究は、これまでの医学的なエビデンスを網羅的に分析した最も包括的な解析だと研究グループは述べている。
ただし研究グループは、「早産児がすぐに蘇生を必要とする場合、臍帯結紮を行わないままの状態で呼吸のサポートが可能な病院でない限り、今回の研究結果を適用すべきではない」と注意を促している。Seidler氏は「臍帯結紮を行わないまま、どうすれば最も状態の悪い早産児に対して最善の出生直後ケアを行えるのかを、今後さらなる研究で検討する必要がある」と話している。
[2023年11月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら