性差が考慮されていない現在のHbA1cの糖尿病判定値は、閉経前女性には高すぎる可能性を示すデータが報告された。仮に性特異的なカットオフ値を適用したとすると、50歳未満の女性糖尿病患者が17%増加する可能性があるという。英国の臨床検査関連企業であるBenchmarking Partnership社のDavid Holland氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Diabetes Therapy」に9月30日掲載された。
耐糖能の評価や糖尿病の診断には経口ブドウ糖負荷試験が行われるが、血糖コントロールの指標であるHbA1cも糖尿病の判定ツールとして利用されている。そのHbA1cは溶血や失血、鉄欠乏性貧血からの回復期などの赤血球寿命が短縮する状態において、低値となりやすい。閉経前女性は同年代の男性よりHbA1cが低いことが報告されているが、これには月経による鉄欠乏の反復のためにHbA1cが低値となっている女性が一定数存在していることの影響も考えられる。一方、女性糖尿病患者の診断時年齢は平均すると男性よりも高齢である反面、死亡率は男性よりも高い。この事実に、糖尿病の診断の遅れが関与している可能性がある。
これらの点を検討するためHolland氏らはまず、英ノースミッドランド大学病院で2012~2019年にHbA1c検査を1回のみ受け、その値が50mmol/mol(約6.8%)以下だった14万6,907人のデータを解析。このうち50歳未満のHbA1cを性別で比較すると、女性は男性よりも平均1.6mmol/mol有意に低値であり(P<0.0001)、HbA1cの中央値である36mmol/molに該当する年齢は、男性では34~36歳であるのに対して女性は46~47歳だった。これにより、50歳未満の女性の糖尿病診断年齢が、男性より最大10年遅くなる可能性のあることが分かった。なお、50歳以上の集団でも女性の方が平均HbA1cは低値だったが、男性との差は0.9mmol/molだった(P<0.0001)。
次に、同大学病院とは別の英国内6件の医療機関、計93万8,678人のデータを用いた解析を実施したところ、上記と同様の結果が再現された。現行の糖尿病判定のためのHbA1c基準値は国際的に48mmol/mol(6.5%)とされているが、これを仮に46mmol/molに下げた場合、16~50歳の女性の0.26%が新たに糖尿病と判定される可能性が示唆された。
続いて、イングランドとウェールズで実施された一般住民対象糖尿病実態調査のデータを援用した解析を施行。HbA1cの判定値を性特異的なものとし、女性に対しては46mmol/molという値を適用したとすると、50歳未満の糖尿病女性患者数は現在よりも17%増加すると試算された。また、16~50歳の糖尿病患者における死亡リスクの差(女性が男性より26.7%高値との報告がある)の最大64%は、診断遅延の影響により発生している可能性が考えられた。
著者らは、「われわれの研究結果は、50歳未満の女性にとって現行のHbA1cによる糖尿病の判定値が、約2mmol/mol高すぎる可能性があることを示唆している。判定値を再検討し、性特異的なカットオフ値を設定すべきかもしれない。それによって女性の糖尿病を早期に見いだし介入することができ、将来的には女性患者の予後改善につながるのではないか」と述べている。
[2023年10月3日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら