ペットボトルの水で喉を潤す人は、水と一緒に何十万もの微細なプラスチック粒子を摂取しているかもしれない。米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所のBeizhan Yan氏らによる研究で、1Lのペットボトル入り飲料水の中には検出可能なプラスチック粒子が平均約24万個含まれており、それらの10個に9個はナノプラスチックであることが明らかになった。この研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に1月8日掲載された。
マイクロプラスチックとは、直径5mm以下から1μm(1mの100万分の1)までのプラスチックの破片であり、1μmよりも小さなものはナノプラスチックと呼ばれる。1μmがいかに小さいかは、人間の髪の毛の太さが約70μmであることを考えると分かりやすいだろう。自然界の有機物とは異なり、ほとんどのプラスチックは無害な物質へと分解されず、単にどんどん小さくなっていくだけであり、理論的にどこまで小さくなるかに限界はないという。
このように、ナノプラスチックは非常に小さいため、腸や肺を通過して血流に入り、最終的には心臓や脳などの臓器に蓄積する。そのため、研究者らは、ナノプラスチックが人体に与え得る影響を突き止めようと、精力的に研究を進めている。
Yan氏らによると、ペットボトル入りの飲料水中に含まれるプラスチック粒子は、2018年に1L当たり平均325個の粒子が検出されたことが報告されたことを機に、社会問題になっている。その後の追跡調査では、それ以上のプラスチック粒子が含まれていることが判明している。ただし、今回の研究論文の筆頭著者である同大学化学分野のNaixin Qian氏は、「これまでの技術では、ナノの世界の粒子については推定が不可能だった」と話す。
今回の研究では、刺激ラマン散乱顕微鏡(stimulated Raman scattering microscopy)と呼ばれる新たな技術が採用された。これは、特定の分子に共鳴するように調整した2種類のレーザーを同時に試料に照射することで、そこに含まれる標的分子を検出する技術だ。研究グループはこの技術を用いて、一般的なプラスチック7種類を対象とし、米国で販売されている主要な3種類のボトル入り飲料水中に含まれているプラスチック粒子の量を100nm(1nm=0.001μm)のサイズまで調べた。
その結果、1L当たり平均約24万個のプラスチック粒子が検出され、その90%がナノプラスチックであることが明らかになった。検出されたプラスチック粒子の中で多かったのは、ペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)であった。研究グループは、「PETは、ボトルが絞られたり、熱にさらされたりすると、水の中に溶け出してしまう可能性がある」と述べている。PET粒子よりも多く検出されたのは、ボトルに水を注入する際の浄化に使われるプラスチックフィルターの材料であるポリアミドの粒子であった。そのほか、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの工業用プラスチックの粒子も含まれていた。
しかし、研究グループによると、本研究で対象とした7種類のプラスチックは、サンプルから検出されたナノ粒子の約10%を占めるに過ぎず、残りの粒子が何なのかについては見当もつかなかったという。もしそれらが全てナノプラスチックであれば、1L当たりの水に含まれる粒子の数は数千万個に達する可能性がある。
研究グループは今後の計画として、10ポンド(約4.5kg)の洗濯物に含まれる衣類の合成素材から数百万個のマイクロプラスチックやナノプラスチックの粒子が剥がれ落ち、排水に流れ込んでいるとの仮定に基づき、水道水と廃水中に含まれるナノプラスチックの量を調べる予定だとしている。
[2024年1月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら