認知症は現代病? 古代での症例はまれ

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/03/18

 

 認知症は時代を問わず人類を悩ませてきた病気だと思われがちだが、実際には現代に登場した病気であるようだ。米南カリフォルニア大学レオナード・デイビス校(老年学)のCaleb Finch氏と米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校歴史学分野のBurstein Stanley氏らが古代ギリシャとローマの医学書を分析した結果、アリストテレスや大プリニウスなどが活躍した今から2000〜2500年前には、認知症に罹患する人は極めてまれだったことが示唆されたのだ。研究グループは、「現代の環境やライフスタイルがアルツハイマー病などの認知症の発症を促しているとする考え方を補強する結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に1月25日掲載された。

 Finch氏らは、高齢者の健康に関する医学史の中で認知機能の低下についての記述が見当たらないことから、紀元前8世紀から紀元後3世紀の間にギリシャとローマで書かれた一次文献から記憶力の低下や認知症についての記述を探し出し、その評価を行った。

 その結果、古代ギリシャ人は、加齢に伴い軽度認知障害(MCI)に相当するような記憶力の問題が現れることを認識してはいたが、アルツハイマー病などの認知症で見られるような記憶や発話、論理的思考における深刻な障害についての記述を残していないことが明らかになった。

 数世紀後のローマ時代に入ると、いくつかの文献に重度の認知症が疑われる記述が見つかった。例えば、紀元後1世紀のローマ帝国時代に活躍したギリシャの医学者ガレノスは、80歳になると、新しいことを覚えるのが難しくなる者がいることを記述している。また、博物学者として著名な大プリニウスは、共和制ローマ末期の元老院議員で弁論家のマルクス・ウァレリウス・メッサッラ・コルウィヌスが自分の名前を忘れてしまったことを記録している。同じく共和政ローマ末期の政治家、弁論家、哲学者のキケロは、「老人の愚かさは(…)無責任な老人の特徴であるが、全ての老人の特徴ではない」と記している。

 このような調査結果を踏まえてFinch氏らは、都市ローマの人口が増えるにつれて公害が進み、それが人々の認知機能を低下させる一因になったのではないかと推測している。また同氏らは、ローマの貴族階級は、鉛の調理器具や水道管を使用し、甘味料としてワインに酢酸鉛を添加していたため、知らぬ間に神経毒性のある鉛に曝露していた可能性にも言及している。

 古代の文献調査で得られた観察結果を再確認するモデルとして、Finch氏らはボリビアのアマゾンに住む先住民のツィマネ族に関する現代の研究を引き合いに出す。同氏らはその理由を、「ツィマネ族は産業革命以前のライフスタイルを維持し、非常に活動的であるという点で、古代のギリシャ人やローマ人とよく似ているため」と説明する。ツィマネ族は、認知症発症率が極めて低い(1%程度)ことでもよく知られている。これに対し、65歳以上の米国人での認知症発症率は11%に上る。

 Finch氏は、「ツィマネ族の研究データは洞察力に富んだものであり、非常に貴重だ。認知症の発症例がほとんど存在しない高齢者の大規模集団について詳細に記録された最良のデータであり、その内容は全て、環境が認知症の発症リスクを決定する大きな要因であることを示唆している。ツィマネ族の研究データは、認知症のリスクを解明するための手がかりを提供しているのだ」と述べている。

[2024年2月2日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら