米国ニュージャージー州出身のLisa Pisanoさんは、人生の終わりを諦観していた。54歳の彼女は心不全と末期腎不全を患い、かつ、複数の慢性疾患があるため臓器移植の待機リストから外されていた。「リストに載らないことが分かった時には、自分に残された時間があまりないことを実感した」とPisanoさんは語っている。しかし彼女は、左室補助人工心臓(LVAD)の植え込みと遺伝子編集されたブタ腎臓の移植のおかげで、新たな命を手に入れた。
治療を担当した米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスの外科医によると、このような大きく異なる二つの医療技術が1人の患者に対して用いられたのは、これが初めてのことであり、LVAD植え込み手術を受けた患者が、その後なんらかの臓器移植を受けた例は記録がないという。さらに、遺伝子編集されたブタ腎臓の移植成功例は、今年3月に米国で行われた症例に続き、今回が2例目とのことだ。NYU移植研究所のRobert Montgomery氏は、「Pisanoさんの命を救うことを可能にした科学的な進歩は驚異的であり、それを支えた人々の信念は計り知れないほどの大きさだ」と述べている。
今回の移植では、外科医らはまずLVADを植え込み、その数日後、拒絶反応を防ぐために遺伝子編集されたブタの腎臓と胸腺を移植した。LVAD植え込み手術を行わなければ、Pisanoさんの余命はあと数日か数週間と予測されていた。しかし、腎不全患者は通常、LVADの適応とならない。NYUグロスマン医学部のNader Moazami氏は、「透析患者は死亡リスクが高いため、Pisanoさんも、もし腎臓移植の見込みが立っていなければLVADは使われなかっただろう。今回の治療は、腎臓移植を予定している透析患者に対してLVAD植え込み手術が行われた世界初のケースだ」と語る。
PisanoさんへのLVAD植え込み手術は4月4日、ブタ腎臓移植は4月12日に行われた。彼女には移植された臓器を攻撃する高レベルな抗体があったため、もしそのまま待機していたなら、適切なドナーが現れるまで恐らく何年もかかる可能性があったという。しかし、遺伝子編集によってこの問題は解消され、移植されたブタ腎臓はPisanoさんによく適合した。さらに、免疫系の“教育の場”である胸腺も移植することで、拒絶反応のリスクをより低下させた。Montgomery氏によると、「ヒトへの臓器移植に利用可能なブタは繁殖させることもでき、クローン作成のような複雑な技術的操作を必要としないため、臓器不足に対する持続可能、かつ拡張可能な解決策となり得る」とのことだ。
なお、米国の末期腎不全患者は約80万8,000人で、そのうちの8万9,000人以上が移植を受ける機会を待っているが、昨年、移植を受けられた患者はわずか約2万7,000人に過ぎなかったという。
[2024年4月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら