肝臓手術前の瀉血療法は輸血リスクを低減する

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2025/01/09

 

 カナダ、オタワ在住の2児の母であるRowan Laddさん(46歳)は、2022年、予定されている肝臓に転移したがんを摘出する手術を開始する前に、血液を採取して保存する可能性があると医師から説明を受けた際、不思議には思ったが害はないだろうと考えた。Laddさんは、「肝臓には血管がたくさんあるので大出血のリスクがあることは手術前の説明で聞いている。研究者達がそのリスクを低減させるために努力しているのは素晴らしいことだと思った」と振り返る。

 実際、Laddさんが参加した臨床試験の結果によると、このような採血により肝臓手術中に必要となる輸血のリスクが半減することが明らかになった。この研究結果は、「The Lancet Gastroenterology & Hepatology」に12月9日掲載された。論文の筆頭著者で、オタワ大学(カナダ)肝膵胆道研究部長のGuillaume Martel氏は、「大規模な肝臓手術の直前に血液を患者から採取することは、出血量と輸血を減らすための方法としてこれまでわれわれが見出した中で最良の方法だ」と述べている。

 Martel氏らは、肝臓手術を受けた患者の4分の1から3分の1は、過度の出血のため輸血が必要になると指摘する。肝臓手術の最も一般的な理由はがんであるが、残念ながら輸血ががんの再発リスクを高める可能性があるという。

 Martel氏らは、2018年から2023年の間にカナダの4つの病院で、肝切除を受ける予定がある患者486人を登録し、循環血液量減少を目的とした瀉血療法を受ける群(245人、瀉血療法群)と通常のケアを受ける群(241人、通常ケア群)にランダムに割り付けた。瀉血療法群は、肝切除前に体重1kg当たり7~10mLの全血を採取された。

 最終的に、瀉血療法群223人(平均年齢61.4歳、男性61%)と通常ケア群223人(平均年齢62.1歳、男性51%)を対象に解析が行われた。ランダム化後30日以内の赤血球輸血率は、瀉血療法群で8%(17/223人)、通常ケア群で16%(36/223人)であった。群間差は−8.8(95%信頼区間−14.8〜−2.8)、調整リスク比(aRR)は0.47(同0.27〜0.82)であり、瀉血療法群では輸血リスクが有意に低下していた。また、30日以内に重篤な合併症が生じた割合(瀉血療法群17%、通常ケア群16%)と、あらゆる合併症の発生率(それぞれ、61%、52%)に両群間で有意な差は認められなかった。

 Martel氏は、循環血液量減少を目的とした瀉血療法について、「肝臓の血圧を下げることで効果を発揮する。この方法は安全で、簡単で、費用もかからないことから、出血リスクの高い肝臓手術では必ず検討すべきだ」と述べている。

 Laddさんの手術は、輸血を必要とすることなく終わり、2年が経過した今もがんは再発していない。Laddさんはこの臨床試験について、「私が選ばれて本当に良かったと思うし、それが他の人の助けになることにも喜びを感じている。この手術は、私の命を救ってくれたと感じている。私は仕事を辞めて、リラックスし、自分のことを大事にするようになった。がんになったのは不運だったが、それが私の目を覚まさせてくれた。以前はただ生きているだけだったが、今は自分の人生を心から楽しんでいる」と話している。

 研究グループは、瀉血療法は大幅なコスト削減につながることも指摘している。カナダでは、輸血には350ドル(1ドル154円換算で5万3,900円)以上かかるが、瀉血療法に使われる血液バッグとチューブのコストは20ドル(同3,080円)程度に過ぎない。研究グループは、この手順は現在、肝臓移植の手術で試験されているが、大量の出血を伴いがちな他の手術でも試験的に検討されるべきだとの考えを示している。論文の共著者であるモントリオール大学(カナダ)輸血医学部長のFrançois Martin Carrier氏は、「一度実施してみれば、医療従事者はこの処置の容易さが分かるし、それが手術に与える影響は劇的だ。これは現在、試験に参加した4つの病院で標準治療となっている。この研究結果が公表されれば、世界中の他の病院でもこの処置を採用し始めるはずだ」と述べている。

[2024年12月11日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら