アスピリンはPI3K経路に変異のある大腸がんの再発リスクを低下させる

提供元:HealthDay News

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公開日:2025/02/24

 

 低用量アスピリンの毎日の服用は、大腸がん患者のがん再発を抑制する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)シグナル伝達経路(以下、PI3K経路)の遺伝子に変異のある大腸がん患者に1日160mgのアスピリンを毎日、3年間投与したところ、がんの再発リスクが半減することが示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のAnna Martling氏らによるこの研究は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025、1月23~25日、米サンフランシスコ)で発表された。

 PI3K/AKT(プロテインキナーゼB)/mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)シグナル伝達経路は、細胞の成長や増殖など細胞の生存に関わるさまざまな機能に関与する重要な経路である。この経路の異常は、がんや糖尿病、自己免疫疾患などの発症に関連することが知られている。過去の後ろ向き研究では、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路において重要な役割を果たす遺伝子であるPIK3CAの変異の有無により、アスピリンによる治療に対する反応を予測できる可能性のあることが報告されている。しかし、これらの研究はランダム化比較試験ではなく、因果関係を証明するには不十分だった。

 今回の研究では、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの33カ所の病院において、PI3K経路に変異を有する大腸がん(ステージI~IIIの直腸がん、ステージII~IIIの結腸がん)患者を対象に、アスピリンの毎日の服用ががんの再発リスクに与える影響をプラセボとの比較で検討した。まず、対象者をPI3K経路関連遺伝子の変異パターンに基づき、PIK3CA遺伝子のエクソン9と20のいずれかまたは両方に変異を持つ「グループA」と、および、それ以外のPI3K遺伝子(PIK3CA遺伝子のエクソン9または20以外の部位、PIK3R1、PTEN)に変異を持つ「グループB」の2つに分けた。その上で、それぞれのグループの中で対象者を、手術後3カ月以内に毎日160mgのアスピリンを3年にわたって投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。主要評価項目は再発までの期間(TTR)、副次評価項目は無病生存期間(DFS)であった。

 遺伝子解析で明確な結果を得た2,980人のうち、1,103人(37%)にPI3K経路関連遺伝子に変異が認められた(グループA:515人、グループB:588人)。最終的に、626人がアスピリンまたはプラセボのいずれかを投与される群にランダムに割り付けられた。

 その結果、アスピリンの投与は、プラセボの投与と比べて、がんの進行を抑制する可能性のあることが示された。治療開始から3年後に再発が認められた対象者の割合は、グループAではアスピリン群7.7%、プラセボ群14.1%、グループBではそれぞれ7.7%と16.8%であった。プラセボ群と比べたアスピリン群でのTTRのハザード比(HR)は、グループAで0.49(P=0.044)、グループBで0.42(P=0.013)であった。また、DFSのHRは、グループAで0.61(P=0.091)、グループBで0.51(P=0.017)であった。アスピリン服用に関連する副作用の発生は少なく、重度の胃腸出血が1件、血腫が1件、アレルギー反応が1件報告された。

 研究グループは、「この研究結果は、大腸がん患者の治療法をただちに変える可能性がある」と述べている。Martling氏は、「アスピリンは、PI3K経路に変異を有する大腸がん患者の3分の1以上において、再発率を効果的に低下させ、DFSを改善することが示された」と述べている。

 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

[2025年1月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら