米国で4例目の豚由来腎臓移植を受けた患者が退院

米マサチューセッツ総合病院で、同国で4例目となる、遺伝子編集された豚の腎臓を移植された、66歳の男性腎不全患者が退院した。この移植手術は、遺伝子編集された豚の臓器をヒトに用い得るかを調査するという、米食品医薬品局(FDA)が承認した新たな臨床試験の一環として実施された。同様の手術は、1月下旬にアラバマ州の女性に対しても行われ成功していて、その直後に行われた今回の手術も成功したことで、深刻なドナー不足の解決に向けて大きな一歩を踏み出した。
ニューヨークタイムズ紙によると、今回移植を受けた患者はニューハンプシャー州在住のTim Andrewsさん。彼は過去2年以上にわたり透析治療を受けていたが、透析開始後に心臓発作を起こし、吐き気と倦怠感にも悩まされていた。移植治療について医師と相談し始めた昨年8月ごろからは、車椅子に頼る生活だった。ところが、豚の腎臓を得てからわずか1週間後には、退院できるほどに回復した。「まるで新しいエンジンを手に入れたようだった。術後回復室から集中治療室に移動しベッドに移る際に、タップダンスをしたくらいだ。信じられないほど幸せだ」とAndrewsさんは語っている。
米国では現在、10万人以上が臓器移植を待っており、その患者の多くは腎臓を必要としている。ドナー不足のために、待機期間中に亡くなる人も少なくない。このギャップを埋めるために、複数のバイオテクノロジー企業が、豚の臓器のヒトに対する拒絶反応を抑制するための遺伝子編集技術を開発してきた。Andrewsさんに移植された腎臓は、59箇所の変更を含む、69箇所の遺伝子編集が施されたものだと、ニューヨークタイムズ紙が報じている。
これまでに米国内で4人がこのような技術の下、豚の腎臓の移植を受けている。その中の1人、アラバマ州のTowana Looneyさんは順調に回復している。しかしその一方で、ほかの2人の患者は移植手術後に死亡した。このような困難にもかかわらず、今回の移植手術を主導した、マサチューセッツ総合病院の移植外科医の1人である河合達郎氏によると、医師たちは常に学び続けているという。
では、移植外科医は何を目指しているのだろうか?
ニューヨークタイムズ紙の取材に対して河合氏は、「遺伝子編集された豚の臓器を用いた移植医療を、より多くの患者に適用可能な治療法として、臓器不足の解決策を確立することだ。その実現にはまだ長い道のりが残されているが、今回の移植もそのための重要な一歩である」と答えている。
ただし、これらの症例の積み重ねによって、豚由来の臓器移植が安全かつ効果的であることが証明されたとしても、その費用や保険適用の課題がまだ不確定要素として残っている。腎不全患者の多くは働くことができずにメディケアに頼っているが、将来的にメディケアや民間保険が、このような移植医療をカバーするかどうかは現段階では不明だ。
[2025年2月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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