一般住民を対象とした試験のメタ解析により、推定糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分/1.73m2および尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)≧1.1mg/mmolは死亡リスクの独立の予測因子であり、慢性腎臓病(CKD)の定義やstagingの定量的なデータとして使用可能なことが明らかとなった。Johns Hopkins Bloomberg公衆衛生大学院のJosef Coresh氏ら「Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium」の研究グループがLancet誌2010年6月12日号(オンライン版2010年5月18日号)で報告した。アジアや欧米などでは成人の10~16%がCKDとされ、高血圧や糖尿病などにCKDが加わると全死亡や心血管死、腎不全の進行のリスクが増大する。しかし、CKDの定義やstageの決定にeGFRおよびアルブミン尿を使用することには大きな議論があるという。
一般住民におけるeGFR、アルブミン尿と死亡率の関連を評価
研究グループは、eGFR、アルブミン尿と死亡率の関連の評価を目的に、一般住民を対象とした臨床試験のメタ解析を行った。
1,000例以上を対象としベースラインにおけるeGFR、尿中アルブミン濃度の情報を含む試験を選択し、全死亡および心血管死に関する標準化されたデータを抽出してプールした。
Cox比例ハザードモデルを用いて、関連する交絡因子で補正したeGFR、アルブミン尿と全死亡、心血管死のハザード比(HR)を推算した。
eGFRとACRが悪化すると死亡リスクが倍数的に増大
解析の対象は、ACRの測定値を含む14試験に参加した10万5,872人(73万577人・年)および尿蛋白の試験紙検査値を含む7試験に参加した112万8,310人(473万2,110人・年)であった。
ACR測定値を含む試験では、eGFRが75~105mL/分/1.73m2の範囲にあることや、eGFRが低値から上昇することと、死亡リスクとの間には関連は認めなかった。
eGFR 95 mL/分/1.73m2との比較における、eGFR 60mL/分/1.73m2の場合の全死亡の補正HRは1.18(95%信頼区間:1.05~1.32)で、45mL/分/1.73m2の全死亡の補正HRは1.57(同:1.39~1.78)、15mL/分/1.73m2の全死亡の補正HRは3.14(2.39~4.13)であり、eGFRが60mL/分/1.73m2以下では値が低下するほど死亡リスクが増大した。
ACR 0.6mg/mmolとの比較では、ACR 1.1mg/mmolの場合の全死亡の補正HRは1.20(95%信頼区間:1.15~1.26)で、3.4mg/mmolの全死亡の補正HRは1.63(同:1.50~1.77)、33.9mg/mmolの全死亡の補正HRは2.22(同:1.97~2.51)であり、ACRが1.1mg/mmol以上になると値が上昇するほど死亡リスクが上昇した。
eGFRとACRには相互作用のエビデンスはないものの、双方が悪化すると死亡リスクが倍数的に増大した。同様の知見が、心血管死に関する解析でも確認され、蛋白尿試験紙検査を行った試験でも求められた。
著者は、「eGFR<60mL/分/1.73m2およびACR≧1.1mg/mmolは一般住民における死亡リスクの独立の予測因子である」と結論し、「本試験は腎機能のリスク評価およびCKDの定義、stagingにおいて定量的なデータをもたらす」としている。
(菅野守:医学ライター)