ヒト化抗CD20モノクローナル抗体ocrelizumabは、再発寛解型多発性硬化症における脳MRI上のガドリニウム増強病変の低減や臨床的な予後の改善に有用なことが、スイス・バーセル大学病院のLudwig Kappos氏らの検討で示された。多発性硬化症における炎症は、炎症誘発性のCD4陽性T細胞(Th1、ThIL-17)によって誘導されると考えられるが、B細胞も抗体依存性/非依存性の経路を介して関与している可能性があるという。ocrelizumabはCD20陽性B細胞を選択的に阻害し、CD20のキメラ型モノクローナル抗体リツキシマブ(商品名:リツキサン)に比べ抗体依存性で細胞誘導性の細胞障害性作用が強いため組織依存性の発病機序の調整能が高く、ヒト化されているため反復投与しても免疫原性が低いことから、ベネフィット-リスクプロファイルが優れると期待されている。Lancet誌2011年11月19日号(オンライン版2011年11月1日号)掲載の報告。
4群を比較する無作為化プラセボ対照第2相試験
研究グループは、再発寛解型多発性硬化症に対するocrelizumabの安全性および有効性を評価する多施設共同無作為化プラセボ対照第2相試験を行った。
20ヵ国79施設から18~55歳の再発寛解型多発性硬化症患者が登録され、プラセボ群、低用量ocrelizumab群(600mg:1日目と15日目に300mgずつ静注)、高用量ocrelizumab群(2,000mg:1日目と15日目に1,000mgずつ静注)あるいはインターフェロンβ1a群(30μg、週1回、筋注)の4つの群に無作為に割り付けられた。ベースラインおよび治療期間中は4週ごとに、MRIによる評価を実施した。
治療割り付け情報は、参加施設、監視委員会、統計解析担当者、製薬会社のプロジェクトチームには公開されなかった。インターフェロンβ1a群を除き、治療は二重盲検下に進められた。主要評価項目は、12、16、20、24週のT1強調脳MRI上のガドリニウム増強病変(GEL)の総数とした。
低用量群、高用量群ともGEL数が有意に低減
無作為割り付けされた220例のうち218例(99%)が少なくとも1回の投与を受け、24週の治療を終了したのが204例(93%)、48週の治療を完遂したのは196例(89%)であった。解析の対象となった218例のintention-to-treat集団のうち、プラセボ群に54例、低用量ocrelizumab群に55例、高用量ocrelizumab群に55例、インターフェロンβ1a群には54例が割り付けられた。
24週の時点で、intention-to-treat集団におけるGEL数の割合はプラセボ群に比べ低用量ocrelizumab群で89%と有意に低く(95%信頼区間:68~97、p<0.0001)、高用量ocrelizumabでも96%と有意差を認めた(同:89~99、p<0.0001)。探索的な解析ではあるが、ocrelizumabは低用量群、高用量群ともインターフェロンβ1a群よりもGEL低下率が良好であった。
重篤な有害事象の発現率は、プラセボ群4%(2/54例)、低用量ocrelizumab群2%(1/55例)、高用量ocrelizumab群5%(3/55例)、インターフェロンβ1a群4%(2/54例)であった。
著者は、「ocrelizumabは脳MRI上のB細胞の減少や臨床的な疾患活動性の改善において明らかな有効性を示し、低用量と高用量で効果は同等であった」と結論し、「この知見は多発性硬化症の病因におけるB細胞の関与を示唆しており、今後の大規模な長期試験の実施の根拠となるものだ」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)