英国では、2003年に18歳未満への選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の投与を禁忌としたが、この規制措置によって若年者の自殺行動に変化は見られないことが、Bristol 大学社会医学のBenedict W Wheeler氏らの調査で明らかとなった。規制当局は規制の理由をSSRIが自殺行動のリスクを増大させる可能性があるためとしているが、抗うつ薬の処方数の低下でうつ病が治療されず自殺死亡率が増加しているとする他国の試験もある。BMJ誌2008年3月8日号(オンライン版2008年2月14日号)掲載の報告。
SSRI規制措置が自殺および自傷行為に及ぼす影響を調査
研究グループは、2003年に制定された18歳未満のSSRI使用を制限する規制措置が、自殺および非致死的自傷行為に及ぼす影響の調査を目的とした地域相関研究を行った。
SSRIの処方傾向は英国全土の12~19歳のデータを用い、自殺死亡率はイングランド/ウェールズの12~17歳を、自傷行為による入院率はイングランドの12~17歳のデータを使用した。
自殺が低下、自傷行為が増加したが、規制との関連はない
抗うつ薬の処方数は1999年から2003年にかけて倍増したが、2004~2005年の1年で1999年のレベルに低下した。これらの処方数の大きな変化は、自殺あるいは自傷行為の時間的傾向とは関連しなかった。
1993~2005年の間に、12~17歳の年間自殺率は毎年、男性で3.9%、女性3.0%ずつ低下していたが、期間中のこの低下率は実質的な変化ではなかった。同様に、1999~2005年の自傷行為による入院率は毎年、男性で1.1%、女性で5.7%ずつ増加したが、規制措置施行後の変化に統計学的なエビデンスは認めなかった。
Wheeler氏は、「18歳未満のSSRIの使用を制限した2003年の規制措置により抗うつ薬の処方数が著減したが、これは若年者の自殺行為の変化とは関連しなかった。特にイングランドのデータは、抗うつ薬使用の減少が自殺行為の増加をもたらさないこと示している」と結論し、「これらの知見は、若年者のSSRIへのアクセス低下は、英国の公衆衛生に有害な影響を及ぼしていないことを示唆する」指摘している。
(菅野守:医学ライター)