経口第Xa因子阻害薬エドキサバン(商品名:リクシアナ)は、症候性静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、有効性がワルファリンに非劣性で、安全性は優れていることが、オランダ・アムステルダム大学のHarry R Buller氏らが行ったHokusai-VTE試験で示された。VTEは、心筋梗塞や脳卒中後にみられる心血管疾患として3番目に頻度が高く、北米では年間70万人以上が罹患しているという。従来の標準治療は低分子量ヘパリン+ビタミンK拮抗薬だが、ヘパリンの前投与の有無にかかわらず、新規経口抗凝固薬の有効性が確立されている。本研究は、2013年9月1日、アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。
最大1年投与の有用性を非劣性試験で評価
Hokusai-VTE試験は、ヘパリンを投与された急性VTE患者の治療において、エドキサバンのワルファリンに対する非劣性を評価する二重盲検無作為化試験。対象は、年齢18歳以上で、膝窩静脈、大腿静脈、腸骨静脈の急性症候性深部静脈血栓症(DVT)または急性症候性肺塞栓症(PE)の患者とした。
被験者は、非盲検下にエノキサパリンまたは未分画ヘパリンを5日以上投与された後、二重盲検、ダブルダミー下にエドキサバンまたはワルファリンを投与する群に無作為に割り付けられた。エドキサバンの投与量は60mg/日とし、腎機能障害(Ccr:30~50mL/分)、低体重(≦60kg)、P糖蛋白阻害薬を併用している患者には30mg/日が投与された。投与期間は3~12ヵ月で、治験担当医が患者の臨床的特徴や意向に応じて決定した。
有効性の主要評価項目は症候性VTEの発症率、安全性の主要評価項目は大出血または臨床的に重大な出血の発症率であり、ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が1.5未満の場合に非劣性と判定することとした。
重症PE患者ではVTE発症が48%低減
2010年1月~2012年10月までに日本を含む37ヵ国439施設から8,292例が登録され、エドキサバン群に4,143例、ワルファリン群には4,149例が割り付けられた。治療を受けなかった患者を除く、それぞれ4,118例(DVT 2,468例、PE 1,650例、平均年齢55.7歳、男性57.3%、体重≦60kg 12.7%、Ccr 30~50mL/分 6.5%)、4,122例(2,453例、1,669例、55.9歳、57.2%、12.6%、6.6%)がmodified intention-to-treat集団として解析の対象となった。
12ヵ月間の治療が施行されたのは40%であった。エドキサバン群の服薬遵守率は80%であり、ワルファリン群の治療域(INR:2.0~3.0)達成時間の割合は63.5%だった。
有効性の主要評価項目は、エドキサバン群が3.2%(130例)、ワルファリン群は3.5%(146例)で、HRは0.89、95%CIは0.70~1.13であり、非劣性マージンが満たされた(非劣性のp<0.001)。安全性の主要評価項目は、エドキサバン群が8.5%(349例)、ワルファリン群は10.3%(423例)で、HRは0.81、95%CIは0.71~0.94と、有意な差が認められた(優越性のp=0.004)。他の有害事象の発症率は両群で同等であった。
PE患者のうち938例が右室機能不全(NT-proBNP≧500pg/mL)と判定された。この重症PEのサブグループにおける主要評価項目の発症率はエドキサバン群が3.3%と、ワルファリン群の6.2%に比べ有意に低値であった(HR:0.52、95%CI:0.28~0.98)。
著者は、「重症PEを含むVTE患者に対し、ヘパリン投与後のエドキサバン1日1回経口投与は、有効性が標準治療に劣らず、出血が有意に少なかった」とまとめ、「本試験では、有効性の評価は治療期間の長さにかかわらず12ヵ月時に行われており、実臨床で予測されるアウトカムをよりよく理解できるデザインとなっている」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)