乳がんのリスクが高いと判定された閉経後の女性では、アロマターゼ阻害薬(AI)アナストロゾール(商品名:アリミデックスほか)の予防投与により、乳がんの発症が大幅に抑制され、有害事象の発現も十分に許容できるものであることが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のJack Cuzick氏らが実施したIBIS-II試験で示された。乳がんは女性のがんの中で最も頻度が高く、2008年には世界で約1,400万人の女性が新たに乳がんと診断されている。AIは、閉経後女性において乳がんの再発および対側乳房の新規腫瘍の発生を予防することが報告されている。本報告は、サンアントニオ乳がんシンポジウム(12月10~14日、米国、サンアントニオ市)で発表され、Lancet誌オンライン版2013年12月12日号に掲載された。
5年投与の予防効果を無作為化試験で評価
IBIS-II試験は、乳がん高リスクの閉経後女性に対するアナストロゾールの乳がん予防効果およびその安全性の評価を目的とする国際的な二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢40~70歳の閉経後女性で、45~60歳の場合は相対的な乳がんリスクが一般人口の2倍以上、60~70歳は1.5倍以上、40~44歳は4倍以上とした。
被験者は、アナストロゾール1mg/日またはプラセボを5年間投与する群に無作為に割り付けられた。被験者や担当医には治療割り付け情報がマスクされたが、統計解析者にはマスクされなかった。
主要評価項目は組織学的に確証された乳がん(浸潤性乳がんまたは非浸潤性乳管がん)の発症とし、intention to treat解析が行われた。
乳がんの発症が53%低下
2003年2月2日~2012年1月31日までに、18ヵ国153施設から3,864例の女性が登録され、アナストロゾール群に1,920例(年齢中央値59.5歳、閉経時年齢中央値50.0歳、経産婦83%)、プラセボ群には1,944例(59.4歳、49.0歳、84%)が割り付けられた。
フォローアップ期間中央値5.0年時における乳がん発症数は、アナストロゾール群が40例(2%)、プラセボ群は85例(4%)であり、アナストロゾールによる有意な予防効果が確認された(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.32~0.68、p<0.0001)。
7年後の乳がんの予測累積発症率はアナストロゾール群が2.8%、プラセボ群は5.6%であり、エストロゲン受容体(ER)陽性浸潤性乳がんの予測累積発症率はそれぞれ1.4%、3.3%だった。
死亡は、アナストロゾール群が18例(1%)、プラセボ群は17例(1%)認められた。乳がん死はアナストロゾール群の2例(<1%)のみで、他がん死がそれぞれ7例(<1%)、10例(1%)であり、いずれかの群に特異的に多い死因はみられなかった(p=0.836)。
有害事象は、アナストロゾール群が1,709例(89%)、プラセボ群は1,723例(89%)に認められた(リスク比[RR]:1.11、95%CI:0.90~1.38)。総骨折数[164例(9%)vs. 149例(8%)、RR:1.00、95%CI:0.98~1.03]や特定部位の骨折数には、両群間に差はみられなかったが、関節の痛みやこわばり、手足の疼痛などの筋骨格系の有害事象[1,226例(64%)vs. 1,124例(58%)、RR:1.10、95%CI:1.05~1.16]およびホットフラッシュや寝汗[1,090例(57%)vs. 961例(49%)、RR:1.15、95%CI:1.08~1.22]は、アナストロゾール群で多かった。
著者は、「アナストロゾールは、乳がんのリスクが高いと判定された閉経後女性において乳がんの発症を抑制した」とまとめ、「エストロゲン枯渇療法に伴う有害事象のほとんどは治療とは関連しないことが示されている。この知見と今回の結果を合わせると、乳がんリスクが高い閉経後女性に対するアナストロゾールの投与は支持されると考えられる」と指摘する。
(医学ライター 菅野 守)