新規開発中のLCZ696は、ACE阻害薬エナラプリル(商品名:レニベースほか)よりも、駆出率低下の心不全を有する患者の死亡および入院リスクの抑制に優れることが示された。英国・グラスゴー大学のJohn J.V. McMurray氏らPARADIGM-HF研究グループが二重盲検無作為化試験の結果、報告した。LCZ696は、新規クラスのアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI:ネプリライシン阻害薬sacubitril[AHU377]とARBバルサルタンからなる)で、高血圧症および駆出率保持の心不全を有する患者を対象とした小規模試験において、ARB単剤よりも血行動態および神経ホルモンに関する効果が大きかったことが示されていた。NEJM誌オンライン版2014年8月30日号掲載の報告より。
LCZ696 vs. エナラプリル
本検討では、駆出率が低下した心不全患者に対するLCZ696 vs. エナラプリルの有効性、安全性が比較された。先行研究では、これらの患者についてエナラプリルの改善効果が示されていた。
試験は、18歳以上、NYHA心機能分類II、III、IV、駆出率40%未満などを有する心不全患者を適格とし、推奨されている治療に加えて、LCZ696(1日2回200mg)またはエナラプリル(1日2回10mg)を受けるよう無作為に割り付けて行われた。
主要アウトカムは、心血管系による死亡または心不全による入院の複合とした。同時に、試験は心血管系による死亡率の両群差が検出できるようデザインされていた。
2009年12月8日~2012年11月23日の間に、47ヵ国1,043施設から、LCZ696群に4,187例、エナラプリル群に4,212例の計8,442例が無作為に割り付けられた。被験者の平均年齢は両群とも63.8歳、女性の割合は21.0%と22.6%など特性バランスは取れていた。また大半の患者が慢性心不全の推奨治療薬を服用していた(例:ACE阻害薬服用78.0%と77.5%など)。
なお本試験は、LCZ696の圧倒的な有益性が認められたため、追跡期間中央値27ヵ月で事前規定に従い早期に中断された。
死亡・心不全入院の複合、LCZ696群が有意に優れる
試験中断終了時点における主要アウトカムの発生は、LCZ696群914例(21.8%)、エナラプリル群1,117例(26.5%)で認められた。LCZ696群のハザード比(HR)は0.80、95%信頼区間[CI]は0.73~0.87であった(p<0.001)。
全死因死亡は、LCZ696群711例(17.0%)、エナラプリル群835例(19.8%)であった(HR:0.84、95%CI:0.76~0.93、p<0.001)。これらの患者のうち心血管系が原因の死亡は、それぞれ558例(13.3%)、693例(16.5%)だった(同:0.80、0.71~0.89、p<0.001)。
また、エナラプリルと比較してLCZ696は、心不全による入院リスクを21%抑制し(p<0.001)、心不全の症状および運動制限も緩和したことが認められた(p=0.001)。
LCZ696群の患者のほうが、エナラプリル群の患者よりも降圧効果が大きく、血管浮腫は非重篤である割合が高く、また腎機能障害、高カリウム血症、咳の症状がみられる患者の割合が低かった。