ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)前の冠動脈内血栓吸引療法は、PCI単独に比べ1年後の全死因死亡を改善しないことが、スウェーデン・ウプサラ大学のBo Lagerqvist氏らが行ったTASTE試験で示された。急性STEMIの多くは冠動脈内の血栓形成に起因し、血栓の重症度や血流量低下、心筋灌流障害は、不良な臨床アウトカム(心筋梗塞の再発、ステント血栓症、死亡など)の重要な予測因子とされる。プライマリPCI前の血栓吸引療法の有用性が示唆されているが、短期的な死亡率の改善効果は確立されていない。NEJM誌オンライン版2014年9月1日号掲載の報告。
主要評価項目(30日時点)に差はないことは確認済み、1年後について解析
TASTE試験は、STEMI患者に対する血栓吸引療法+プライマリPCIとPCI単独の有用性を前向きに評価する多施設共同非盲検無作為化対照比較試験。
すでに、30日時の全死因死亡(主要評価項目、p=0.63)やステント血栓症(p=0.06)、心筋梗塞の再発による再入院(p=0.09)は、PCI前に血栓吸引療法を施行するほうが減少するものの、有意な差はないことが確認されており、研究グループは今回、1年後のこれらの臨床アウトカムの解析を行った。
本試験には3ヵ国31のPCI施設(スウェーデン29、アイスランド1、デンマーク1)が参加した。解析には、2つのレジストリ(SCAAR、SWEDEHEART)に登録された7,244例の患者データを用いた。
主要サブグループでも同様の結果
ベースラインの平均年齢は血栓吸引療法群(3,621例)が66.5歳、PCI単独群(3,623例)は65.9歳で、男性がそれぞれ75.1%、74.6%であった。
1年時の全死因死亡率は、血栓吸引療法群が5.3%(191例)、PCI単独群は5.6%(202例)であり、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.78~1.15、p=0.57)。
心筋梗塞による再入院率は、それぞれ2.7%、2.7%(HR:0.97、95%CI: 0.73~1.28、p=0.81)、ステント血栓症の発症率は0.7%、0.9%(HR:0.84、95%CI:0.50~1.40、p=0.51)であり、いずれも有意な差はみられなかった。
全死因死亡、心筋梗塞による再入院、ステント血栓症の複合エンドポイントの発生率は、血栓吸引療法群が8.0%、PCI単独群は8.5%であった(HR:0.94、95%CI:0.80~1.11、p=0.48)。
冠動脈血栓のGradeやPCI前の冠血流量など、すべての主要なサブグループにおいても、結果は同様であった。
著者は、「この全国的な試験には、PCIが予定されているSTEMI患者の大部分が登録されており、したがって今回の結果はこの地域のPCI施行STEMI患者集団を正確に代表するものと考えられる」としている。
(菅野守:医学ライター)