インドの急性冠症候群はSTEMIが多く、貧困層の30日死亡率が高い

提供元:ケアネット

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公開日:2008/05/15

 



インドの急性冠症候群(ACS)患者は先進国に比べST上昇心筋梗塞(STEMI)の割合が高く、貧困層はエビデンスに基づく治療を受けにくいために30日死亡率が高いことが、インドSt John's医科大学のDenis Xavier氏が実施したCREATE registryにより明らかとなった。2001年には世界で710万人が虚血性心疾患で死亡したが、そのうち570万人(80%)が低所得国の症例であった。インドは世界でACSによる負担がもっとも大きい国であるが、その治療およびアウトカムの実態はほとんど知られていない。Lancet誌2008年4月26日号掲載の報告。

心筋梗塞疑い例を対象としたレジストリー研究




CREATE registryは、インドの50都市89施設で実施されたプロスペクティブなレジストリー研究である。対象は、明確な心電図上の変化(STEMI、非STEMI、不安定狭心症)が見られ急性心筋梗塞(MI)が疑われる症例、あるいは心電図上の変化は見られないが虚血性心疾患の既往を有しMIが疑われる症例とした。臨床的アウトカムおよび30日全原因死亡率の評価を行った。

70%以上が貧困層~中間所得下位層




2002~2005年の間に2万937例が登録され、明確な心電図上の変化により診断がなされた2万468例のうち1万2,405例(60.6%)がSTEMIであった。全体の平均年齢は57.5歳であり、非STEMI例/不安定狭心症(59.3歳)よりもSTEMI例(56.3歳)のほうが若年であった。1万737例(52.5%)が中間所得層の下位層であり、3,999例(19.6%)が貧困層であった。

症状発現から来院までの所要時間中央値は360分、来院から血栓溶解療法開始までの時間は50分。糖尿病が6,226例(30.4%)、高血圧が7,720例(37.7%)、喫煙者は8,242例(40.2%)であった。

30日死亡率はSTEMI例および貧困層で有意に高い




STEMI例は非STEMI例よりも血栓溶解薬(96.3%がストレプトキナーゼ)(58.5% vs 3.4%)、抗血小板薬(98.2% vs 97.4%)、ACE阻害薬/アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)(60.5% vs 51.2%)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)(8.0% vs 6.7%)の施行率が有意に高かった(いずれもp<0.0001)。逆に、STEMI例は非STEMI例/不安定狭心症に比べβ遮断薬(57.5% vs 61.9%)、脂質低下薬(50.8% vs 53.9%)、冠動脈バイパス移植術(CABG)(1.9% vs 4.4%)の施行率が有意に低かった(いずれもp<0.0001)。

STEMI例の30日アウトカムが死亡8.6%、再梗塞2.3%、心停止3.4%、脳卒中0.7%であったのに対し、非STEMI例/不安定狭心症ではそれぞれ3.7%、1.2%、1.2%、0.3%と有意に良好であった(いずれもp<0.0001)。

富裕層は貧困層に比べ血栓溶解療法(60.6% vs 52.3%)、β遮断薬(58.8% vs 49.6%)、脂質低下薬(61.2% vs 36.0%)、ACE阻害薬/ARB(63.2% vs 54.1%)、PCI(15.3% vs 2.0%)、CABG(7.5% vs 0.7%)の施行率が有意に高かった(いずれもp<0.0001)。貧困層の30日死亡率は富裕層よりも有意に高かった(8.2% vs 5.5%、p<0.0001)。治療法で補正するとこの差は消失したが、リスク因子およびベースライン時の患者背景で補正した場合は維持された。

Xavier氏は、「インドのACSは先進国に比べSTEMI例が多かった。これらの患者の多くは貧困層であり、それゆえにエビデンスに基づく治療を受けにくく、30日死亡率が高かった」と結論し、「貧困層における病院へのアクセスの遅れを解消し、高額すぎない治療法を提供できれば、罹患率および死亡率が低減する可能性がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)