上部消化管出血への輸血戦略、大規模RCTは可能か/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2015/05/20

 

 論争の的となっている急性上部消化管出血への輸血戦略について、大規模な非盲検集団無作為化試験の実行可能性を探るTRIGGER試験が英国・オックスフォード大学のVipul Jairath氏らにより行われた。その結果、試験は実行可能であることが示され、著者は、「臨床診療ガイドラインで、すべての上部消化管出血患者に対する制限輸血戦略を推奨するよう記述を変える前に、その効果を評価する大規模な集団無作為化試験は実行可能であり、実施が必須である」と指摘した。これまで、同戦略に関する検討は小規模試験3件と単施設試験1件のみである。単施設試験の所見では、制限輸血(限定的な赤血球[RBC]輸血)群で死亡の低下が報告されており、研究グループは、同所見が多施設の集団無作為化試験によって立証されるか否かを検討することを目的とした。Lancet誌オンライン版2015年5月5日号掲載の報告より。

英国6つの病院で試験の実行可能性を探る
 検討は英国の6つの大学病院で、18歳以上の新規に急性上部消化管出血を発症した全患者を登録して行った。被験者について、併存疾患の有無は問わなかったが、大量出血例は除外した。
 
 研究グループは病院単位で被験者を2群に割り付け、一方の群には制限輸血(ヘモグロビン濃度が80g/L未満で輸血)を、もう一方の群には非制限輸血(同100g/L未満で輸血)を行った。
 
 実行可能性アウトカムは、被験者補充率、輸血戦略に対するアドヒアランス、ヘモグロビン濃度、RBC曝露、選択バイアス、および第III相試験のデザインおよび経済性評価に導くための情報とした。さらに28日時点の出血と死亡を主要な探索的臨床アウトカムとした。

集団無作為化デザインでも制限輸血群でRBC輸血低下
 2012年9月3日~2013年3月1日に、936例(制限輸血群の3病院で403例、非制限輸血群の3病院で533例)が登録された。
 
 被験者補充率は制限輸血群よりも非制限輸血群で有意に高かった(62% vs. 55%、p=0.04)。
 
 ベースラインでアンバランスな特性項目があったが、Rockallリスクスコア(両群とも2)およびBlatchfordリスクスコア(両群とも6)は両群で同一であった。
 
 輸血戦略へのアドヒアランスは、制限輸血群96%(SD 10)、非制限輸血群83%(25)であった(差:14%、95%信頼区間[CI]:7~21、p=0.005)。
 
 最後に記録された平均ヘモグロビン濃度は、制限輸血群116(SD 24)g/L、非制限輸血群118(20)g/Lであった(差:-2.0、95%CI:-12.0~7.0、p=0.50)。また、RBC輸血を受けたのは非制限輸血群(247例[46%])よりも制限輸血群(133例[33%])が少なかった(差:-12%、95%CI:-35~11、p=0.23)。RBCの平均輸血単位は、制限輸血群1.2(SD 2.1)、非制限輸血群1.9(2.8)であり(差:-0.7、-1.6~0.3、p=0.12)、いずれも有意差はみられなかった。
 
 臨床的アウトカムについても有意な差はみられなかった。
 
 これらを踏まえて著者は、「集団無作為化デザインは、両群で迅速な被験者補充、高いプロトコルアドヒアランス、貧血の解消に結び付き、制限輸血群で有意ではないがRBC輸血の減少に結び付いた」とまとめている。

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コメンテーター : 上村 直実( うえむら なおみ ) 氏

国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長

東京医科大学 消化器内視鏡学講座 兼任教授

J-CLEAR評議員