頸動脈雑音(carotid bruit)の聴診により、心血管リスクに対する積極的な治療戦略が大きなベネフィットをもたらす症例を選択しうることが、Walter Reed米陸軍医療センターのChristopher A Pickett氏らが行ったメタ解析によって示された。頸動脈雑音は全身のアテローム性動脈硬化のマーカーとされるが、その脳血管イベントの予測因子としての意義は低いことがわかっている。そこで、同氏らは心血管イベントにおける頸動脈雑音の意義を検証し、Lancet誌2008年5月10日号で報告した。
頸動脈雑音の有無で心筋梗塞、心血管死を予測しうるかを検証
研究グループは、頸動脈雑音の有無で心筋梗塞および心血管死を予測しうるか否かを検証するためのメタ解析を行った。“carotid”および“bruit”をキーワードとしてMedline(1966~2007年8月)およびEmbase(1974~2007年8月)を検索し、得られた論文をさらに絞り込んだ。
心筋梗塞の発症率および心血管死亡率をアウトカムの変数とした。論文の質はHayden rating schemeで評価し、データは変量効果モデルを用いてプールした。
100人・年当たりの心筋梗塞発症率:3.69 vs 1.86、心血管死亡率:2.85 vs 1.11
抽出された22論文のうち20論文(91%)がプロスペクティブなコホート研究であった。1万7,295例(6万2,413.5人・年)が解析の対象となり、フォローアップ期間中央値4年(2~7年)におけるサンプルサイズ中央値は273例(38~4,736例)であった。
100人・年当たりの心筋梗塞の発症率は、頸動脈雑音が聴取された症例(8試験)が3.69(95%信頼区間:2.97~5.40)であったのに対し、頸動脈雑音が聴取されなかった症例(2試験)は1.86(0.24~3.48)であった。年間の心血管死亡率も、頸動脈雑音のある症例(16試験)が、ない症例(4試験)よりも高かった[2.85(2.16~3.54)/100人・年 vs 1.11(0.45~1.76)/100人・年]。
頸動脈雑音がある症例とない症例を直接的に比較した4つの試験では、心筋梗塞のオッズ比は2.15(1.67~2.78)、心血管死は2.27(1.49~3.49)であった。
Pickett氏は、「頸動脈雑音が聴取される症例は心筋梗塞および心血管死のリスクが有意に増大していた」と結論し、「頸動脈雑音を聴診することにより、心疾患のリスクを有する患者のうち、心血管リスクに対する積極的な治療戦略が大きなベネフィットをもたらす可能性のある症例を選択できるかもしれない」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)