救急隊到着前の心肺蘇生で予後改善/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2015/06/22

 

 スウェーデンでは、人口約970万人のうち300万人以上が心肺蘇生(CPR)の訓練を受けているが、その効果を疑問視する声があるという。今回、同国カロリンスカ研究所のIngela Hasselqvist-Ax氏らが調査したところ、救急隊(EMS)到着前のCPRにより院外心停止患者の30日生存率が2倍以上に向上していることがわかった。心肺停止患者のアウトカムの改善には発症から治療開始までの期間の短縮が重要であり、欧米のガイドラインでは、院外で可能な最も重要な措置は、心停止の発生を早期に認識して緊急電話を入れ、CPRおよび除細動を行うこととされる。研究の成果は、NEJM誌2015年6月11日号掲載の報告より。

20年以上、約3万例をEMS到着前CPRの有無別に比較
 研究グループは、1990年1月1日~2011年12月31日にSwedish Cardiac Arrest Registryに登録された院外心停止患者のデータを解析した。目撃者のいない例や目撃者がEMSのみの例は除外した。1998年に、緊急連絡者がCPR訓練を受けていない場合は電話でCPRを支援する方法が導入され、2008年には、30日生存例で退院時の脳機能評価が開始された。
 
 この間に登録された院外心停止患者6万1,781例のうち3万381例が解析の対象となった。EMS到着前に、その場に居合わせた者によりCPRが施行されたのは1万5,512例(51.1%)で、到着前には施行されなかった患者は1万4,869例(48.9%)であった。EMS到着前CPR施行群は非施行群よりも若く(年齢中央値:69 vs. 74歳、p<0.001)、自宅での発症率が低く(55.5 vs. 73.2%、p<0.001)、女性が少なかった(26.8 vs. 30.2%、p<0.001)。

 到着前施行群は、心停止の原因が心臓と推定される患者が多くないにもかかわらず、心室細動の頻度が高かった。また、到着前施行群は、卒倒(collapse)からEMSを電話で呼ぶまでの期間や、卒倒からCPR開始までの期間は短かったが、EMSを呼んでから到着までの期間や、卒倒から除細動開始までの期間(心室細動がみられる場合)は長かった。調査期間を通じて、CPR訓練を受けた者の数やEMS到着前のCPR施行例の割合は経時的に増加していた。

30日生存率が4.0%から10.5%に、早く開始するほど予後良好
 30日生存率は、到着前施行群が10.5%であり、非施行群の4.0%に比べ有意に高かった(p<0.001)。すべてのサブグループで、到着前施行群の30日生存率が非施行群よりも有意に良好だった(各サブグループのオッズ比[OR]の範囲:1.97~3.02)。

 全症例における卒倒からCPR開始までの期間別(0~3分、4~8分、9~14分、14分以上)の30日生存率は、それぞれ15.6%、8.7%、4.0%、0.9%であり、早期にCPRを開始するほど優れた(p<0.001)。この関連はすべてのサブグループで認められた(いずれも、p<0.001)。また、このような早期CPRと生存率の正の相関は、調査期間を通じて安定的に認められた。

 事後解析として傾向スコア(年齢、性別、心停止の発生場所、心停止の原因、心電図上の初期調律、卒倒からEMSを呼ぶまでの期間、EMSを呼んでから到着までの期間、イベント発生年)を算出し、これらのスコアで補正しても、顕著な有意差をもって到着前施行群の30日生存率が優れていた(OR:2.15、95%信頼区間[CI]:1.88~2.45、p<0.001)。傾向スコアに、心室細動がみられた患者の発症から除細動開始までの期間を含めても、この有意差は保持されていた(OR:2.27、99%CI:1.84~2.81、p<0.001)。

 一方、2009年1月1日~2011年12年31日にデータが収集されたサブグループのうち、到着前施行群の35%が、電話で支援を受けた者(その場に居合わせたがCPR訓練を受けていない者)によりCPRが施行された。これらの患者の30日生存率は10.9%であり、電話での支援を受けない者によって早期にCPRが開始された患者の15.4%に比べ有意に不良であった(p<0.001)。また、30日生存例の退院時の脳機能評価は474例で行われ、95%が良好と判定された。

 著者は、「その場に居合わせた者が、EMSの到着前にCPRを開始した場合、緊急電話より迅速に行われていたことから、CPR訓練を受けた者は受けていない者に比べ、心停止発症の認識や行動の開始が良好であることが示唆される」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)

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コメンテーター : 野間 重孝( のま しげたか ) 氏

栃木県済生会宇都宮病院 副院長

J-CLEAR評議員