待機的手術などの侵襲性の処置のためにワルファリン治療を中断する必要のある、心房細動(AF)患者に対するブリッジング抗凝固療法の必要性は不明とされる。今回、カナダ・マクマスター大学のJames D Douketis氏らは、BRIDGE試験を行い、低分子量ヘパリンによる周術期のブリッジング抗凝固療法は、動脈血栓塞栓症の予防や大出血リスクの抑制には効果がないことを確認したことを報告した。ブリッジング抗凝固療法の必要性そのものに対する根本的な疑問があり、エビデンスもないため、現行の診療ガイドラインの勧告には説得力がなく、一貫性に欠ける状況だという。NEJM誌オンライン版2015年6月22日号掲載の報告。
動脈血栓塞栓症予防の非劣性、大出血リスク抑制の優越性を検証
BRIDGE試験は、AF患者の周術期の動脈血栓塞栓症予防における非ブリッジング抗凝固療法の、低分子量ヘパリンによるブリッジング抗凝固療法に対する非劣性、および大出血リスク抑制における優越性を検証する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。
対象は、年齢18歳以上、心電図またはペースメーカーに関連する診察時に慢性のAFまたは心房粗動が確認されて3ヵ月以上のワルファリン治療(INR:2.0~3.0)を受けており、待機的手術などの侵襲性の処置のためワルファリン治療の中断を要する患者であった。
被験者は、低分子量ヘパリン(ダルテパリン100IU/kg、1日2回、皮下投与)によるブリッジング抗凝固療法を受ける群またはプラセボ群(非ブリッジング群)に無作為に割り付けられた。ワルファリン治療は手術の5日前に中止された。試験薬の投与は手術の3日前に開始し、24時間前まで続けられた。
ワルファリンは手術日の夕方または翌日に再投与が開始された。試験薬は、出血リスクの低い手技の場合は術後12~24時間に、出血リスクの高い手技の場合は術後48~72時間に再投与が開始された。フォローアップは術後30日まで続けられた。
主要評価項目は、動脈血栓塞栓症(脳卒中、全身性塞栓症、一過性脳虚血発作)および大出血であった。
大出血、小出血ともブリッジング群で高頻度
2009年7月~2014年12月までに北米の108施設に1,884例が登録され、非ブリッジング群に950例(平均年齢71.8±8.74歳、男性73.3%、平均CHADS
2スコア2.3±1.03)、ブリッジング群には934例(71.6±8.88歳、73.4%、2.4±1.07)が割り付けられた。
術後30日時の動脈血栓塞栓症の発生率は、非ブリッジング群が0.4%(4/918例)、ブリッジング群は0.3%(3/895例)であり、非ブリッジング群のブリッジング群に対する非劣性が確証された(平均群間差:0.1%、95%信頼区間[CI]:-0.6~0.8、非劣性検定:p=0.01、優越性検定:p=0.73)。
また、大出血の発生率は、非ブリッジング群が1.3%(12/918例)、ブリッジング群は3.2%(29/895例)であり、非ブリッジング群の優越性が示された(相対リスク:0.41、95%CI:0.20~0.78、優越性検定のp=0.005)。
副次評価項目である死亡(0.5 vs.0.4%、優越性検定のp=0.88)、心筋梗塞(0.8 vs.1.6%、p=0.10)、深部静脈血栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)、肺塞栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)には優越性に関する差はみられなかったが、小出血の頻度はブリッジング群で有意に高かった(12.0 vs.20.9%、p<0.001)。
著者は、「全体的な臨床ベネフィットは、非ブリッジングのほうが良好であることが示された」と結論し、「ワルファリン中断中の周術期の動脈血栓塞栓症リスクは過大に評価され、ブリッジング抗凝固療法では抑制されない可能性がある。周術期の動脈血栓塞栓症の発症メカニズムには、手術の種類や術中の血圧変動が、より密接に関連している可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)