ゲノムワイド研究の進展により、疾患関連の遺伝子座の特定が可能となっている。FTO遺伝子座は、肥満症との遺伝的関連が最も強いことが知られているが、その関連メカニズムは明らかになっていない。米国ハーバード・メディカル・スクールのMelina Claussnitzer氏らは、ヒトおよびマウスを用いた検討から、脂肪細胞の熱産生抑制と関連するFTOアレル遺伝子の存在、およびその基本メカニズムを明らかにした。NEJM誌オンライン版2015年8月19日号掲載の報告。
エピゲノムデータ、アレル活性などを調べ肥満メカニズムを解明
研究グループは、
FTO遺伝子座と肥満症の関連の制御回路と基本メカニズムを明らかにするために、エピゲノムデータ、アレル活性、モチーフ保存性、レギュレータ発現、遺伝子共発現パターンを調べた。
患者およびマウスサンプルでみられた所見からの予測や、患者サンプルでのCRISPR-Cas9ゲノム編集を用いた予測を検証した。
白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に変えうるメカニズムも明らかに
データから、肥満症と関連する
FTOアレル遺伝子の存在が示された。同関連では、脂肪前駆細胞が自律的に、ミトコンドリア熱産生を抑制し肥満症をもたらしていた。具体的には、rs1421085 T-to-C一塩基多型が、転写制御タンパク質ARID5Bのモチーフを乱し、それにより前脂肪細胞の発現が促進され、早期脂肪細胞分化における
IRX3と
IRX5発現が倍増する。これによりミトコンドリアの熱産生は5分の1となり、脂肪細胞は、エネルギー消費型のベージュ脂肪細胞(ブライト細胞)からエネルギー貯蔵型の白色脂肪細胞に変化し、脂質の蓄積が増大していくとのメカニズムが判明した。
そして、マウスにおける検討で、脂肪細胞の
Irx3抑制により、身体活動や食行動を変化せずに、体重減少とエネルギー消費が増大したことが示された。
また、リスクとなるアレル遺伝子を持つ患者において、脂肪細胞の
IRX3または
IRX5のノックダウンにより、熱産生能が7倍まで回復した。一方これら遺伝子の過剰な発現は、非リスク・アレル遺伝子キャリアの脂肪細胞では相反する効果をもたらすことが示された。
さらに、リスク・アレル遺伝子を有する被験者の脂肪細胞のrs1421085において、CRISPR-Cas9編集によるARID5Bモチーフを修復することで、
IRX3または
IRX5の発現は抑制され、褐色脂肪細胞プログラムが起動し、熱産生能が7倍まで上昇した。