英国・ランカスター大学のKirk Allen氏らは、英国で食品へのトランス脂肪酸の使用を削減または禁止する方針を打ち出した場合の、健康や社会経済に与える影響や費用対効果について調べる疫学的モデル研究を行った。その結果、禁止とした場合、今後5年間の冠動脈疾患死を2.6%回避もしくは延期する可能性があることなどを報告した。BMJ誌オンライン版2015年9月15日号掲載の報告。
完全禁止、表示改善、外食のみ禁止それぞれの場合の影響を試算
研究は、英国の国民食事栄養調査(National Diet and Nutrition Survey)、低所得者食事栄養調査(Low Income Diet and Nutrition Survey)、統計局からのデータおよびその他公表されている研究からの医療経済データを用いて行われた。
25歳以上成人を、社会経済的状況で5群に層別化し、加工食品へのトランス脂肪酸の使用を完全に禁止、トランス脂肪酸の表示を改善、レストランおよびテイクアウトでのトランス脂肪酸の使用を完全に禁止としたそれぞれの場合の影響を調べた。
主要評価項目は、冠動脈疾患による死亡の回避または延期、生存年(life years gained)、質調整生存年(QALY)。また、政府および産業界のポリシーコストや、医療費およびインフォーマルケアの減少がもたらす節減、および生産性低下などとした。
完全禁止で、不平等な冠動脈疾患死も15%減少可能
加工食品へのトランス脂肪酸の使用を完全に禁止とした場合、2015~20年において、冠動脈疾患死について約7,200例(2.6%)を回避または延期可能であることが示された。また、冠動脈疾患による早期死亡が、社会経済的に最も恵まれていない階層群で多いが、この不平等さを完全禁止とすることで約3,000例(15%)減少可能であることが示された。
表示の改善やレストラン/ファストフードでの使用のみを禁止とした場合は、冠動脈疾患死の回避は1,800例(0.7%)~3,500例(1.3%)、不平等さの減少は600例(3%)~1,500例(7%)と試算され、効果は半減に留まることが示された。
また、完全禁止とした場合、楽観的な試算(完全禁止による生産活動が通常のビジネスサイクルとして行われる)では最大で約2億6,500万ポンド(4億1,500万ドル)のコスト削減がもたらされること、悲観的に見積もっても(アウトサイドの正常サイクルとして行われる)でも6,400万ポンドのコスト削減が見込まれた。
これらを踏まえて著者は、「トランス脂肪酸を排除する規制方針が、英国において最も効果的で公正な政策オプションである。中間的な方針も有益である。しかしながら、産業界に自発的な改善を望むだけでは、健康アウトカムおよび経済アウトカムともにマイナスの影響を与え続けるだけである」と述べている。