中国・北京大学第一病院のXinfang Xie氏らは高血圧治療に関する最新のシステマティックレビューとメタ解析を行い、厳格降圧療法は標準降圧療法と比べて血管保護効果が大きいことを報告した。最近改訂された現行の高血圧ガイドラインは、心血管疾患や腎疾患、糖尿病などを有する高リスク患者の降圧目標について、以前とは推奨を逆転させている。検討グループは、このガイドラインの変化が厳格降圧療法戦略に対する疑念を提示したものとして、厳格降圧療法の有効性と安全性を評価するため本検討を行った。Lancet誌オンライン版2015年11月7日号の掲載報告より。
メタ解析で、降圧の重大心血管イベントなどへの影響を評価
検討は、1950年1月1日~2015年11月3日のMEDLINE、Embase、Cochrane Libraryを検索し無作為化対照試験を包含して行った。適格条件は、フォローアップ6ヵ月以上、目標降圧値やベースラインからの血圧変化値は問わず、被験者を厳格降圧療と非厳格降圧療法に無作為に割り付けた試験とした。被験者の年齢、また論文の言語は問わなかった。
メタ解析で、降圧の重大心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死の各発生および複合発生)への相対リスク(RR)を評価した。また、非血管死および全死因死亡、末期腎臓病、有害事象についても評価し、糖尿病患者参加試験ではアルブミン尿、網膜症の進行についても調べた。
140mmHg未満への降圧ベネフィットも確認
19試験、4万4,989例のデータを特定した。重大心血管イベントは、フォローアップ平均3.8年(範囲:1.0~8.4年)で2,496例が記録されていた。
メタ解析において、厳格降圧療法群の平均血圧値は133/76mmHg、非厳格降圧療法群は140/81mmHgであった。
厳格降圧療法群におけるRR抑制は、重大心血管イベントは14%(95%信頼区間[CI]:4~22%)、心筋梗塞13%(同:0~24%)、脳卒中22%(10~32%)、アルブミン尿10%(3~16%)、網膜症進行19%(0~34%)であった。
一方で、心不全(RR:15%、95%CI:-11~34%)、心血管死(9%、-11~26%)、総死亡(9%、-3~19%)、末期腎臓病(10%、-6~23%)については、厳格降圧療法の明確な効果は認められなかった。
重大心血管イベントの抑制は、患者群を問わずみられ、収縮期血圧140mmHg未満患者へのさらなる降圧についても、明確なベネフィットが認められた。最も大きな絶対ベネフィットは、心血管疾患、腎疾患、糖尿病を有する患者が参加した試験でみられた。
重大有害事象は、降圧と関連していたが、報告は6試験のみであり、年当たりのイベント発生率は、厳格降圧療法群1.2%、非厳格降圧療法群は0.9%であった(RR:1.35、95%CI:0.93~1.97)。厳格降圧療法群のほうが重大低血圧症の発生頻度が有意に高かったが(RR:2.68、95%CI:1.21~5.89、p=0.015)、過剰絶対リスクは小さかった(追跡期間中の人年当たり0.3% vs.0.1%)。
これらの結果を踏まえて著者は、「厳格降圧療法は、標準降圧療法よりも血管保護効果が大きいことが示された。また、高リスク患者では、140mmHg未満患者も含めて降圧が厳格なほどベネフィットは大きかった」と述べ、「厳格降圧のネット絶対ベネフィットは、高リスク患者ほど大きい」とまとめている。