心不全への遺伝子治療、AAV1/SERCA2aは予後を改善するか/Lancet

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2016/02/03

 

 アデノ随伴ウイルス1(AAV1)をベクターとして筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPase(SERCA2a)を導入する遺伝子治療(AAV1/SERCA2a)は、試験用量では心不全患者の予後を改善しないことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のBarry Greenberg氏らが行ったCUPID 2試験で示された。SERCA2aは、心臓拡張期にサイトゾル由来のCa2+を筋小胞体内へ輸送することで心筋細胞の収縮と弛緩を調整している。心不全患者はSERCA2a活性が不足しており、遺伝子導入によってこの異常を是正することで心機能が改善する可能性が示唆されている。Lancet誌オンライン版2016年1月20日号掲載の報告。

250例を登録した無作為化第IIb相試験
 CUPID 2試験は、左室駆出率が低下した心不全患者に対して、AAV1/SERCA2aによる遺伝子導入治療の臨床的な有効性と安全性を評価する、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第IIb相試験(Celladon Corporation社の助成による)。

 対象は、年齢18~80歳、虚血性または非虚血性の心筋症に起因する安定期慢性心不全(NYHA心機能分類:II~IV)で、左室駆出率≦0.35、最適な薬物療法を安定的に30日以上受けていた高リスクの外来患者であった。

 被験者は、AAV1/SERCA2aのデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)耐性粒子(1×1013)を冠動脈内に1回、経皮的に注入する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。国および6分間歩行距離で層別化した。

 主要評価項目は再発イベント(心不全関連の入院、心不全の増悪に対する外来治療)、副次評価項目は末期イベント(全死因死亡、心臓移植、機械的循環補助デバイスの恒久的な装着)の発生までの期間とした。

 2012年7月9日~14年2月5日に、米国、欧州、イスラエルの67施設に250例が登録され、AAV1/SERCA2a群に123例、プラセボ群には127例が割り付けられた。243例(97%、AAV1/SERCA2a群:122例、プラセボ群:121例)が、修正ITT解析の対象となった。

試験用量では効果なし、増量が必要か?
 平均年齢はAAV1/SERCA2a群が60.3(±9.77)歳、プラセボ群は58.4(±12.26)歳で、女性はそれぞれ17%、20%であった。全体で、冠動脈疾患患者が56%、虚血性の心不全患者が約半数含まれた。

 フォローアップ期間中央値17.5ヵ月の時点における再発イベント発生率は、AAV1/SERCA2a群が62.8/100人年、プラセボ群は73.9/100人年であり、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.53~1.65、p=0.81)。

 末期イベント発生率にも有意差はみられず(21.7 vs.16.7/100人年、HR:1.27、95%CI:0.72~2.24、p=0.41)、全死因死亡も改善されなかった(HR:1.31、95%CI:0.73~2.36、p=0.37)。

 死亡は、AAV1/SERCA2a群が25例(21%)、プラセボ群は20例(16%)で、このうち心血管死がそれぞれ22例、18例だった。

 事後解析として、AAV1/SERCA2aの有効性が示されたCUPID 1試験(用量設定試験 、23例)との違いを検討したところ、導入効率に影響を及ぼす可能性のある中空ウイルスカプシド(empty viral capsid、蛋白カプシドのみを含み単鎖DNAは含まない)の含有率に差があることがわかった(CUPID 1試験:85%、CUPID 2試験:25%)。

 著者は、「CUPID 1試験の有望な結果にもかかわらず、試験用量のAAV1/SERCA2aでは、左室駆出率が低下した心不全患者の臨床経過は改善しなかった」とまとめ、「増量により中空ウイルスカプシド数を増やした試験を行う十分な根拠があるが、心不全以外の患者を含めるなど試験デザインを見直す必要もあるだろう」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)