アンジオポエチン様タンパク質 4をコードしているANGPTL4の機能喪失型遺伝子変異キャリアは、非キャリアと比較してトリグリセライド値が有意に低く、同変異体が冠動脈疾患の予防と関連していることを、米・マサチューセッツ総合病院のNathan O. Stitziel氏らが大規模なゲノムワイド解析を行い、明らかにした。冠動脈疾患の発症にはリポ蛋白リパーゼ(LPL)経路が重要な役割を担っており、この経路を治療により調整することで冠動脈疾患の予防につながる可能性がある。近年、冠動脈疾患リスクに影響を及ぼす低頻度コード変異体が発見され、冠動脈疾患の治療や予防のターゲットとして注目されている。NEJM誌オンライン版2016年3月2日号掲載の報告。
冠動脈疾患患者約7万人、対照者約12万人のDNA遺伝子型解析を実施
研究グループは、冠動脈疾患患者7万2,868例および冠動脈疾患を有していない対照者12万770例においてDNA遺伝子型解析を行い、1万3,715個のヒト遺伝子を含む5万4,003個(マイナー対立遺伝子頻度[MAF]>0.01%)のコード配列変異を調べるとともに、DNA配列分析により機能喪失型変異の影響を調査した。
また、心筋梗塞患者6,924例および非冠動脈疾患患者6,834例のエクソーム配列解析から
ANGPTL4のエクソン配列を調べ、機能喪失型対立遺伝子と血中脂質との関連を分析した。
さらなるコード変異体が出現する可能性も
先行研究で、
LPA遺伝子および
PCSK9遺伝子の低頻度ミスセンス変異が冠動脈疾患と関連することが示されていたが、同様の関連が確認された。また、SVEP1遺伝子の低頻度ミスセンス変異が冠動脈疾患のリスク上昇(p.D2702G;MAF:3.60%、疾患オッズ比[OR]:1.14、p=4.2×10
-10)と、
ANGPTL4遺伝子の低頻度ミスセンス変異が冠動脈疾患の予防(p.E40K;MAF:2.01%、OR:0.86、p=4.0×10
-8)とそれぞれ関連していた。
ANGPTL4の機能喪失型対立遺伝子変異キャリアは、心筋梗塞患者6,934例中9例、対照6,834例中19例に認められ、機能喪失型対立遺伝子変異キャリアで冠動脈疾患のリスクが有意に低いことが明らかとなった(OR:0.47、p=0.04)。また、
ANGPTL4機能喪失型対立遺伝子キャリアは、非キャリアと比較し、LDLまたはHDLコレステロール値に有意差はなかったものの、トリグリセライド値が35%有意に低かった(p=0.003)。
ANGPTL4はLPLを阻害することから、
LPL遺伝子変異を調べた結果、冠動脈疾患のリスク増加と関連する機能喪失型ミスセンス変異(p.D36N;MAF:1.9%、OR:1.13、p=2.0×10
-4)、および冠動脈疾患の予防と関連する機能獲得型ナンセンス変異(p.S447*;MAF:9.9%、OR:0.94、p=2.5×10
-7)を同定した。
著者は、「より大きなデータセットとエクソン変異のより広範囲の解析により、冠動脈疾患のリスクと関連する、さらなるコード変異体が出現する可能性がある」と述べている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)