大都市圏におけるPM2.5や自動車排出ガスなど大気汚染物質濃度の増加は、冠動脈石灰化と関連しており、アテローム性動脈硬化症の進展を早めることを、米国・ワシントン大学のJoel D Kaufman氏らが明らかにした。環境大気汚染への長期曝露と、冠動脈石灰化の進行および頸動脈内膜中膜厚(IMT)の増加との関連を評価した、10年にわたる前向きコホート研究「MESA Air」の結果、報告した。PM2.5や自動車排出ガスによる大気汚染物質への長期曝露は心血管リスクと関連しているが、その背後にある心血管疾患の経過は不明であった。著者は、「心血管疾患予防という点で大気汚染の削減へ向けて世界規模での取り組みが必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2016年5月24日号掲載の報告。
米国6大都市圏の約7,000人を10年間追跡
研究グループは、米国6大都市(ボルチモア、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、セントポール、ウィンストン・セーレム)で実施されたMESA Air研究(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis and Air Pollution:アテローム性動脈硬化症と大気汚染の多民族研究)に登録された6,795例(45~84歳)を対象に、経時的にCTを用いて冠動脈石灰化を評価するとともに、超音波検査にて頸動脈IMTを測定した。CT撮影は、2002~05年がほぼ全例、2005~07年が一部、2010~2012年が半数、IMT測定はベースラインが全例、2010~12年は3,459例で実施された。
地域特異的な大気汚染物質濃度は、各地域での測定、政府機関のモニタリングデータおよび地理的予測因子を組み込んだモデルにより、1999~2012年までのPM2.5および窒素酸化物(NOx)濃度を推定した。
PM2.5とNOxの濃度上昇と長期的曝露で冠動脈石灰化が進行
リスク因子または大気汚染物質曝露について補正前、冠動脈石灰化は24±58 Agaston単位/年(平均±標準偏差)、ITMは12±10μm/年まで増加した。2000~10年の大気汚染物質濃度平均値は、PM2.5が9.2~22.6μg/m
3、NOxが7.2~139.2ppbであった。
冠動脈石灰化については、PM2.5濃度が5μg/m
3増加するごとに4.1Agatston単位/年(95%信頼区間[CI]:1.4~6.8)、NOx濃度が40ppb増加するごとに4.8Agatsuton単位/年(同:0.9~8.7)増加し、冠動脈石灰化の進行が示された。
一方、大気汚染物質への曝露は頸動脈IMTの変化量とは関連していなかった。IMT変化量は、PM2.5濃度が5μg/m
3高値で長期に曝露された場合に-0.9μm/年(95%CI:-3.0~1.3)、NOx濃度が40ppb増加の場合で0.2μm/年(95%CI:-1.9~2.4)と推定された。
なお、著者は、研究の限界として、頸動脈IMTが心血管疾患イベントを十分に予測するものではなく、大気汚染物質への曝露は戸外の濃度推定値に基づいており、数年にわたる追跡調査で個々の環境での曝露を推定するのは困難であることを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)