安定冠動脈性心疾患(CHD)患者の心血管アウトカムを予測する、タンパク質ベースの新たなリスクスコアが開発された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のPeter Ganz氏らが手がけたもので、スコアは9つのタンパク質からなり、改訂フラミンガムリスクスコアと比べて4年以内の心筋梗塞・脳卒中・心不全・全死因死亡の予測に優れる。ただし、識別精度がまだ低く、さらなる検証が必要な段階ではあるという。JAMA誌2016年6月21日号掲載の報告。
9つのタンパク質からなるリスクスコアを開発
研究グループは、CHD患者の治療決定のためにはより厳密な心血管リスクの層別化が求められるとして、循環器系タンパク質の大規模解析を利用し、心血管アウトカムのリスクを予測する新たなスコアの開発と検証試験を行った。
スコアの開発は、安定CHD患者が参加した前向きコホート試験を活用して行われた。具体的に開発コホートは、Heart and Soul試験(サンフランシスコベイエリアにある12のクリニックで2000~02年に外来患者を登録し2011年まで追跡[≦11.1年])の被験者を、検証コホートは、ノルウェーの住民ベース試験HUNT3(2006~08年に登録し2012年まで追跡[5.6年])の被験者を対象とした。
修飾アプタマーを用いて、被験者の血漿サンプル中のタンパク質1,130個を評価。心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中・心不全による入院・全死因死亡)リスクとの関連を分析した。
その結果、9つのタンパク質からなるリスクスコアを開発。同スコアを用いた4年以内の心血管イベント予測能を、C統計量などを用いて開発コホートおよび検証コホートで評価した。また、本試験のために改訂したフラミンガム2次イベントモデルとの比較なども行った。
4年以内の心血管イベント予測能は改訂フラミンガムスコアより優れる
開発コホートでは938サンプルについて分析が行われた。登録被験者の年齢中央値は67.0歳、82%が男性であった。検証コホートの分析は971サンプル、70.2歳、72%であった。
開発コホートにおける4年以内の心血管イベント予測能に関するC統計量は、改訂フラミンガムモデルでは0.66、9タンパク質モデルでは0.74、両者を組み合わせたモデルでは0.75であった。検証コホートでは、それぞれ0.64、070、0.71であった。改訂フラミンガムモデルに9タンパク質リスクスコアを加えることで、C統計量は、開発コホートで0.09(95%信頼区間[CI]:0.06~0.12)増大し、検証コホートでは0.05(同:0.02~0.09)増大した。
改訂フラミンガムモデルと比較して、9タンパク質モデルの統合識別指数は開発コホートが0.12(95%CI:0.08~0.16)、検証コホートは0.08(同:0.05~0.10)であった。
研究グループはHeart and Soul参加者について、同一被験者で9タンパク質リスクスコアの変化を評価する検討も行った。4.8年の間隔をおいて139例から2回目のサンプルを集め、心血管イベントについて評価した結果、9タンパク質モデルにおける絶対年率リスク増大は中央値1.86%(95%CI:1.15~2.54)を示し、改訂フラミンガムモデルの1.00%(同:0.87~1.19)よりも有意であった(p=0.002)。一方、ベースラインで心血管イベントを有さなかった375例については、両スコアとも変化はわずかで、有意差はみられなかった(p=0.30)。
著者は、「さらなる検討を行い、低リスク集団でも予測能に優れるかを調べる必要がある」と指摘している。