前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)遺伝子のメッセンジャーRNAを標的とする低分子干渉RNA(small interfering RNA:siRNA)であり、肝細胞でのPCSK9の合成を阻害するInclisiranの第II相試験(ORION-1)の中間解析の結果が、NEJM誌オンライン版2017年3月17日号に掲載された。LDLコレステロール(LDL-C)高値の心血管リスクが高い患者において、6種の投与法をプラセボと比較したところ、すべての投与法でPCSK9値とLDL-C値(180日時、240日時)がベースラインに比べ有意に低下したという。報告を行った英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKausik K Ray氏らは、「肝でのPCSK9 mRNA合成の阻害は、PCSK9を標的とするモノクローナル抗体に代わる治療薬となる可能性があり、注射負担はほぼ確実に軽減されるだろう」と指摘している。
6つの投与法と2つのプラセボを比較
本研究は、Inclisiranの異なる用量および投与回数による投与法の有効性を比較する二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験(Medicines Company社の助成による)。対象は、最大用量のスタチンの投与によっても、LDL-C値70mg/dL以上のアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)およびLDL-C値100mg/dL以上のASCVD高リスクの患者497例であった。
被験者は、3つのInclisiran単回皮下投与群(200mg[60例]、300mg[61例]、500mg[65例])またはプラセボ群(65例)、および3つのInclisiranの2回(初回、90日後)皮下投与群(100mg[61例]、200mg[62例]、300mg[61例])またはプラセボ群(62例)にランダムに割り付けられた。
主要評価項目は、180日時のLDL-C値のベースラインからの変化であった。安全性の評価は210日時のデータを用いて行った。副次評価項目には180日時のPCSK9値の変化などが含まれた。
LDL-C値が27.9~52.6%低下、300mg×2回の効果が最大
ベースラインの8群の平均年齢は62.0~65.2歳、男性が53~74%を占め、平均LDL-C値は117.8~138.8mg/dL、平均PCSK9値は394.2~460.3ng/mLであった。全体の73%がスタチン、31%がエゼチミブの投与を受けていた。
Inclisiranの投与を受けた患者は、LDL-C値とPCSK9値が用量依存性に低下した。180日時のLDL-C値の最小二乗平均値は、単回投与の200mg群が-27.9%、300mg群が-38.4%、500mg群が-41.9%であり、プラセボ群の2.1%に比べ、いずれも有意に低下した(すべてp<0.001)。また、2回投与の100mg群は-35.5%、200mg群は-44.9%、300mg群は-52.6%であり、プラセボ群の1.8%に比し、いずれも有意に低かった(すべてp<0.001)。180日時のLDL-C値が最も低下した300mg×2回投与群(52.6%低下)のLDL-C値50mg/dL未満の達成率は48%だった。
LDL-C値は、第1日の投与から30日後には、投与前に比べ6群で44.5~50.5%低下し、単回投与群はおおよそ60日まで、2回投与群は150日まで最低値が持続した。また、PCSK9値は、14日後には単回投与群で59.6~68.7%、30日後には66.2~74.0%低下し、60日、90日時もこの値がほぼ維持されており、180日には47.9~59.3%低下していた(プラセボ群との比較ですべてp<0.001)。
240日時のLDL-C値は、投与前に比べ単回投与群で28.2~36.6%、2回投与群で26.7~47.2%低下しており、PCSK9値は6群とも40%以上低下していた。また、6つのInclisiran群は、180日時の総コレステロール(TC)、非HDL-C、アポリポ蛋白Bが、プラセボ群に比べ有意に低下した(すべてp<0.001)。
有害事象は、Inclisiran群、プラセボ群とも76%に発現したが、そのうち95%が軽度~中等度(Grade 1/2)であった。重篤な有害事象の発現率は、Inclisiran群が11%、プラセボ群は8%であった。全体で最も頻度の高い有害事象は、筋肉痛、頭痛、疲労、鼻咽頭炎、背部痛、高血圧、下痢、めまいであり、Inclisiran群とプラセボ群に有意な差はなかった。注射部位反応は、単回投与群の4%、2回投与群の7%(6群で5%)にみられたが、プラセボ群には発現しなかった。
著者は、「患者のほとんどが欧州系の人種であり、今後、他の人種で同様の効果が得られるかを検討する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)