冠動脈疾患(CAD)患者では、体重の変動は従来の心血管リスク因子とは独立に、死亡や心血管イベントの発生割合を高めることが、米国・ニューヨーク大学医学部のSripal Bangalore氏らが実施したTreating to New Targets(TNT)試験の事後解析で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2017年4月6日号に掲載された。体重変動は、心血管疾患(CVD)のない患者の死亡や冠動脈イベントのリスク因子であることが知られているが、CAD患者のアウトカムへの影響は不明とされていた。
9,509例を低変動群と高変動群に分けて比較
TNT試験は、臨床的に明らかなCADを有し、LDLコレステロール(LDL-C)値が130mg/dL未満の患者1万1例を対象に、アトルバスタチン(商品名:リピトールほか)10mg/日と80mg/日の心血管イベントの発生を比較する無作為化試験である(Pfizer社の助成による)。今回の研究は、この試験の事後解析として、体重の変動と心血管イベントのリスクの関連を探索するために行われた。
体重変動は、個々の患者の各受診時の体重の変化と定義し、連続測定値の平均絶対差(average successive variability:ASV)を用いて評価した。
主要評価項目は冠動脈イベント(冠動脈性心疾患[CHD]による死亡、非致死的心筋梗塞、心停止からの蘇生、血行再建術、狭心症の複合エンドポイント)とし、副次評価項目は心血管イベント(冠動脈イベント、脳血管イベント、末梢血管疾患、心不全)、死亡、心筋梗塞、脳卒中であった。
9,509例が事後解析の適格基準を満たし、ベースラインの平均体重は84.7±15.4kgであった。初回から最後の体重測定までの期間中央値は4.7年、測定回数中央値は12回(範囲:2~14)だった。ASVによる体重変動中央値は1.76kgであり、中央値未満を低変動群、中央値以上を高変動群とした。
過体重・肥満の高変動例はリスクが高い
ベースラインの背景因子は、低変動群は高変動群に比べ高齢で(年齢中央値:63.4 vs.60.4歳)、65歳以上の割合が高く(43.4 vs.32.6%)、男性の割合が低く(78.9 vs.83.2%)、平均体重が軽かった(79.4±12.6 vs.90.1±16.1kg)(すべてp<0.001)。
リスク因子、ベースラインの脂質値、平均体重、体重の変化で完全補正したモデルでは、体重変動(ASVで測定し、時間依存性共変量とした場合)が1SD(1.5~1.9kg)増加するごとに、冠動脈イベント(イベント数:2,091件、ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.01~1.07、p=0.01)、心血管イベント(2,727件、1.04、1.02~1.07、p<0.001)、死亡(487件、1.09、1.07~1.12、p<0.001)のリスクが有意に増大し、心筋梗塞(HR:1.04、95%CI:0.98~1.09、p=0.17)および脳卒中(1.05、0.97~1.13、p=0.20)は、有意な差はないものの発生割合が増えていた。
五分位数による解析では、体重変動が第1五分位数(平均値:0.93kg)から第5五分位数(同:3.86kg)へと大きくなるに従って、冠動脈イベント、心血管イベント、死亡、心筋梗塞、脳卒中、新規糖尿病の発生割合が有意に増加した。また、第5五分位群は第1五分位群に比べ、冠動脈イベントのリスクが64%増加し(補正HR:1.64、95%CI:1.41~1.90)、心血管イベントは85%(1.85、1.62~2.11)、死亡は124%(2.24、1.74~2.89)、心筋梗塞は117%(2.17、1.59~2.97)、脳卒中は136%(2.36、1.56~3.58)、新規糖尿病は78%(1.78、1.32~2.40)増加した(すべてp<0.001)。
ベースラインの体重が標準の患者では、高変動群は低変動群よりも冠動脈イベントが発生した患者の割合が高かったものの有意差は認めなかった(19.8 vs.17.7%、p=0.17)のに対し、心血管イベントの割合は高変動群が有意に高かった(28.1 vs.23.4%、p=0.01)。一方、ベースライン時に過体重と肥満の患者は、冠動脈イベント(過体重例:24.4 vs.18.0%、肥満例:28.9 vs.22.2%)および心血管イベント(32.0 vs.22.9%、36.7 vs.28.4%)の発生割合が、いずれも高変動群で有意に高率であった(すべてp<0.001)。
著者は、「これらの関連性は、因果関係以外の原因による可能性がある」とし、「高度な体重変動は、より不良な予後をもたらす重篤な疾患がすでに存在することを示すマーカーとなる可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)