マウスAngptl3遺伝子を標的とするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)は、マウスのアテローム性動脈硬化の進展を抑制し、アテローム生成性リポ蛋白を低下させることが、米国・Ionis Pharmaceuticals社のMark J. Graham氏らの検討で示された。ASOの第I相試験では、ヒトANGPTL3遺伝子を標的とする戦略の有用性を示唆する知見が得られた。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年5月24日号に掲載された。疫学研究やゲノムワイド関連分析により、アンジオポエチン様3をコードするANGPTL3遺伝子の機能喪失型変異は、血漿リポ蛋白の低下と関連することが示されている。開発中のIONIS-ANGPTL3-LRxは、肝のANGPTL3 mRNAを標的とする第2世代リガンド結合アンチセンス薬(GalNAc結合ASO薬)である。
治療標的の可能性を前臨床と無作為化第I相試験で評価
研究グループは、心血管疾患のリスク低減における、循環代謝性疾患の治療標的としての
ANGPTL3遺伝子の意義を評価するために、前臨床試験と二重盲検プラセボ対照無作為化第I相試験を行った(Ionis Pharmaceuticals社の助成による)。
前臨床試験では、マウスを用いて、血漿脂質値、トリグリセライド(TG)・クリアランス、肝TG含量、インスリン感受性、アテローム性動脈硬化に及ぼすASOの効果を評価した。
引き続き、第I相試験で健常成人ボランティア44例を、ASOの単回皮下投与(20、40、80mg)、6回皮下投与(10、20、40、60mg/週×6週)、それぞれのプラセボ投与群にランダムに割り付け、安全性、副作用、薬物動態、薬力学の評価を行い、脂質値、リポ蛋白の変動について検討した。
用量依存的にANGPTL3蛋白、脂質値が低下
ASO投与マウスでは、用量依存的に肝臓での
Angptl3 mRNA、Angptl3蛋白、TG、LDLコレステロール(LDL-C)が低下するとともに、肝TG含量とアテローム性動脈硬化の進展が抑制され、インスリン感受性が増大した。
ヒトの単回投与(被験薬群:9例、プラセボ群:3例)の検討では、15日時のANGPTL3蛋白、TG、VLDL-C、非HDL-C、総コレステロール(TC)の値が低下するとともに、ベースラインからの平均低下率が増大し、用量依存性の傾向が認められた。これらの結果には、有意な差はみられなかったが、サンプル数が少ないのが原因と推察された。
6回投与(被験薬群:24例、プラセボ群:8例)の検討では、43日(最終投与から1週後)時のANGPTL3蛋白の発現が、すべての用量でプラセボ群に比べ有意に抑制された(すべて、p<0.01)。また、ANGPTL3蛋白のベースラインから43日時の平均低下率は、10mg群が46.6%(プラセボ群との比較で、p=0.001)、20mg群が72.5%(p=0.003)、40mg群が81.3%(p=0.001)、60mg群は84.5%(p=0.001)と、用量依存的に増大した。
さらに、6回投与では、TG(各用量の43日時の平均低下率:33.2、63.1、53.8、50.4%)、LDL-C(1.3、4.3、25.4、32.9%)、VLDL-C(27.9、60.0、48.5、48.7%)、非HDL-C(10.0、17.6、31.1、36.6%)、アポリポ蛋白B(3.4、13.3、25.7、22.2%)、アポリポ蛋白C-III(18.9、57.8、50.7、58.8%)も、全般に高用量で低下率が高く、40mg群と60mg群は、これら6つの項目の低下率がすべてプラセボ群に比べ有意に増大した。
試験期間中に重篤な有害事象は発現しなかった。6回投与の20mg群の1例が5回目投与後にフォローアップできなくなったが、これ以外に投与中止は認めなかった。また、注射部位反応の報告はなく、単回投与では有害事象は発現しなかった。6回投与では、3例に頭痛(プラセボ群の1例を含む)、3例にめまい(プラセボ群の2例を含む)がみられた。
(医学ライター 菅野 守)