宇宙飛行が、脳の解剖学的構造および髄液腔へ与える影響を、MRIを用いて調べる検討が、米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らにより行われた。同影響に関する情報が限られている中で、研究グループは宇宙飛行士の長・短期ミッション前後の脳を調査した。その結果、主に長期飛行後の宇宙飛行士で、脳の中心溝の狭小化および上方偏位と、頭頂部髄液腔の狭小化が、高頻度に認められたという。所見を踏まえて著者は、「地球帰還後の飛行後画像診断を繰り返し行うなど、さらなる調査を行い、これらの変化がどれくらいにわたるものなのか、また臨床的意味について確認する必要がある」と述べている。NEJM誌2017年11月2日号掲載の報告。
長・短期飛行を担った宇宙飛行士の、飛行前後に撮影した脳MRIを比較
検討はMRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在し長期間のミッションをこなした宇宙飛行士(長期飛行群)18例、スペースシャトルプログラムに関与し短期間のミッションをこなした宇宙飛行士(短期飛行群)16例、それぞれの脳画像をミッション前後に撮影し比較を行った。画像読影者に、飛行期間は知らされなかった。
また、長期飛行群12例と短期飛行群6例の高解像度3次元画像を基に、飛行前後をペアとするシネMRIを作製し、髄液腔の狭小化と脳構造の偏位を評価した。
さらに、T1強調MRI画像の自動解析を用いて、飛行前後の脳室容積の比較も行った。
事前規定の主要解析の注視点は、中心溝の容積の変化、頭頂部髄液腔の容積の変化、脳の垂直偏位であった。
長期飛行群で脳の狭小化、上方偏位、頭頂部髄液腔の狭小化が顕著に確認
平均飛行期間は、長期飛行群164.8日、短期飛行群13.6日であった。
脳の狭小化は、長期飛行群17/18例、短期飛行群3/16例で認められた(p<0.001)。
シネMRIを用いた評価では、脳の上方偏位が長期飛行群(12例)は全例に認められ、一方短期飛行群(6例)は全例で認められなかった。また頭頂部髄液腔の狭小化は、長期飛行群では全例(12例)に認められ、短期飛行群で認められたのは1/6例であった。
長期飛行群の3例が視神経乳頭浮腫と中心溝の狭小化を有していた。このうち入手できた1例のシネMRI評価では、脳の上方偏位が確認された。
(ケアネット)