競技スポーツ中における突然の心停止の発生率は、運動選手10万人年当たり0.76件であり、競技中の構造的心疾患による突然の心停止の頻度は低いことが、カナダ・トロント大学のCameron H. Landry氏らの調査で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年11月16日号に掲載された。スポーツ活動中の突然の心停止の予防を目的とする事前スクリーニング・プログラムにより、リスクを有する運動選手の同定が可能と考えられるが、これらのプログラムの有効性に関しては議論が続いている。
心停止データベースを用い、後ろ向きに検討
研究グループは、カナダの特定地域でスポーツ活動中に発生した突然の心停止をすべて同定し、その原因を調査した(米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]などの助成による)。
Rescu Epistry心停止データベース(ネットワーク地域内で、救急医療隊員が対処したすべての心停止の記録が含まれる)を用いて、2009~14年に12~45歳の集団でスポーツ中に発生したすべての院外心停止を後ろ向きに同定した。
患者に関する複数の情報源の記録(救急車の要請の報告、剖検報告、入院データ、患者・家族との直接面談の記録など)に基づき、突然の心停止(心原性)または非心原性の原因によるイベントの判定を行った。
2009~14年の推定総フォローアップ期間は1,850万人年であった。試験期間中に、院外心停止を起こした2,144例が解析の対象となった。スポーツ中の突然の心停止は74件で発生し、競技スポーツ中が16件、競技以外のスポーツ中が58件であった。
事前スクリーニングで同定の可能性ありは16件中3件
競技スポーツ中の突然の心停止16件の競技別の内訳は、レース競技(マラソン、バイアスロン、トライアスロンなど)とサッカーが4件ずつ、バスケットボール、アイスホッケー、柔術が2件ずつ、野球、ラグビーが1件ずつであった。競技以外のスポーツ中では、ジム練習(12件)、ランニング(9件)が多かった。
競技スポーツ中の突然の心停止を年齢別でみると、12~17歳が4件、18~34歳が9件、35~45歳は3件で、全体の発生率は運動選手10万人年当たり0.76件であった。退院時の生存率は競技スポーツ中が43.8%、競技以外のスポーツ中は44.8%とほぼ同じだった。
競技スポーツ中の突然の心停止の原因は、35歳未満では原発性不整脈(6件)と構造的心疾患(肥大型心筋症、冠動脈奇形:5件)が多く、35~45歳では全例が冠動脈疾患であった。肥大型心筋症による死亡は2件で、不整脈原性右室心筋症による死亡は認めなかった。
競技スポーツ中の突然の心停止のうち3件は、事前スクリーニングを受けていれば同定が可能であったと考えられた。
著者は、「競技スポーツ参加中の突然の心停止はまれで、原因は多岐にわたり、体系的な臨床的事前スクリーニングや、これを心電図ベースの事前スクリーニングと併用しても、患者の80%以上は同定されない可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)