見過ごされている毒ヘビ咬傷、世界的な実態は?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2018/07/31

 

 毒ヘビ咬傷は、見過ごされている頻度の高い罹患率と死亡率の原因である。しかし、ヘビの生態やヘビ咬傷治療に関するデータは乏しく、正確な負荷評価をしようにも限りがある。英国・オックスフォード大学のJoshua Longbottom氏らは、「世界的な関心の低さが、新たな治療法や十分な医療資源、ヘルスケアの入手を阻んでいる」として、世界の最新のヘビ咬傷対策のための“ホットスポット”の描出を試みた。Lancet誌2018年7月12日号掲載の報告。

ヘビ種リストをまとめ、咬傷リスクの最弱集団を特定
 研究グループは、ヘビ咬傷リスクの最弱集団を特定するため、現在入手可能なデータを集約し、この世界的な問題に対処するため、どのような追加データが必要かを調べた。WHOガイドラインを用いてヘビ種リストをまとめ、WHOまたはClinical Toxinology Resourcesから専門家の見解に基づく分布(expert opinion range:EOR)マップを入手、また、VertNet、iNaturalistなど種々のウェブサイトから(spocc R package[version 0.7.0]を使用)、各種ヘビ種の出現データを入手した。

 重複出現データは削除し、グループA(入手可のEORマップまたは種の出現記録がない)、グループB(EORマップありだが出現記録が5種未満)、グループC(EORマップありで出現記録5種以上)の3群のヘビ分類を作成した。グループCについては、2008 WHO EORマップとできるだけ新しいエビデンスを用いて多変量環境類似性分析を行った。

 これらのデータとEORマップを用いて、医学的に重要な毒ヘビ種の最新分布マップを5×5km格子間隔で作成した。その後、これらのデータを3つのヘルスケアシステムの測定基準(抗毒法の利用能、都市部センターへのアクセシビリティ、Healthcare Access and Quality[HAQ]指数)を用いてトライアンギュレーションで、ヘビ咬傷の罹患と死亡に対しても最も脆弱な集団を特定した。

ヘビ種278の世界分布マップを作成、地理的弱者は約9,266万人
 研究グループは、ヘビ種278の世界分布マップの作成に成功した。世界でヘビが生息する地域には68億5,000万人が住んでいるが、約1億4,670万人が、質的に医療提供が乏しい辺境に住んでいることが判明した。

 HAQ指数を用いた比較で、有効な治療がなくあらゆるヘビ種の曝露リスクがあるのは、低HAQ指数群は2億7,291万人(65.25%)であった一方、高HAQ指数群は5億1,946万人(27.79%)で、既存の抗毒利用能が不均衡であることが明らかになった。

 抗毒法は、WHOによる評価では278種のうち119種(43%)のヘビについて入手可能であったが、世界でヘビが生息している場所で暮らす人のうち7億5,019万人(10.95%)が、人々が住む地域から1時間以上離れた場所で暮らしている。

 全体的に、地理的弱者と呼べる人(多くはサハラ以南の国やインドネシア、その他東南アジアの一部に住む人)は、約9,266万人と特定された。

 著者は、「世界の地域レベルで、毒ヘビ咬傷の最も重大な転帰にさらされやすい集団を識別することは重要である。新たなデータを収集し、照合することを優先し、抗毒治療と既存のヘルスケアシステムを強化し、現在入手可能なさらには将来的な介入を展開することである」との見解を示し、「今回のマップは、今後、生態学的および公衆衛生の両面において、ヘビ毒への効果的な対策を研究するのに役立つだろう。また、この顧みられない熱帯病の負荷の将来的な推定値について、よりよい目標値を導くものになるだろう」とまとめている。

(ケアネット)