心不全入院患者に対する、看護師などによる患者中心の在宅移行支援は、入院中の担当医の裁量の下で行われる通常ケアと比べて、再入院や救急受診などの複合臨床アウトカムを改善しなかったことが、カナダ・Population Health Research InstituteのHarriette G. C.Van Spall氏らによる、約2,500例を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果、示された。在宅移行支援は心不全患者のアウトカムを改善可能とされるが、これまで系統的な検証は行われていなかったという。ただし、今回の試験はカナダ・オンタリオ州で行われたものであることを踏まえて著者は、「ほかのヘルスケアシステムや地域で有効かどうかのさらなる検討が必要だろう」と述べている。JAMA誌2019年2月26日号掲載の報告。
退院後のセルフケア教育やかかりつけ医への受診予約などを提供
研究グループは、在宅移行支援モデル「Patient-Centered Care Transitions in HF(PACT-HF)」の有効性を評価する目的で、2015年2月~2016年3月にかけて、カナダ・オンタリオ州の10病院で、心不全で入院した2,494例の成人患者を対象に試験を行った。対照期からある時点で介入期へ移行するステップ・ウェッジ(stepped-wedge)法でのクラスター無作為化試験を行い、2016年11月まで追跡した。
同グループは試験対象病院を無作為に2群に分け、一方を介入群(1,104例)として、退院時に看護師が患者に対し、セルフケア教育と個別的に作成された退院サマリーの提供を行い、退院後1週間以内のかかりつけ医への受診予約を手配した。また高リスク患者に対しては、看護師による組織的な訪問看護と心機能に関する外来ケアを行った。
もう一方は対照群(1,390例)として、在宅移行期のケアについては入院中の担当医の裁量に任せた。
主要アウトカムは、階層的に順位付けて評価した複合アウトカムで、(1)退院3ヵ月時点で評価したあらゆる再入院・救急受診・死亡の複合(第1複合アウトカム)、(2)30日時点のあらゆる再入院・救急受診(第2複合アウトカム)だった。
副次アウトカムは、退院準備に関する「B-PREPARED」スコア(範囲:0[最良]~22[最少])、移行期ケアの質に関する指標「3-Item Care Transitions Measure:CTM-3」(範囲:0[最も悪い]~100[最良])、生活の質に関する指標「5-level EQ-5D:EQ-5D-5L」(範囲:0[死亡]~1[健康状態最良])、質調整生存年(QALY、範囲:0[死亡]~0.5[6ヵ月時点で健康状態最良])だった。
退院準備や移行期ケアの質などは向上
被験者2,494例は、平均年齢77.7歳、1,258例(50.4%)が女性だった。
主要アウトカムの発生について、第1複合アウトカムは介入群49.4%(545件)、対照群50.2%(698件)と、両群で有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.83~1.19)。第2複合アウトカムも、それぞれ27.5%(304件)、29.3%(408件)と有意差はみられなかった(HR:0.93、95%CI:0.73~1.18)。
一方、副次アウトカムについて、6週時点の平均B-PREPAREDスコアが、介入群16.6 vs.対照群13.9(群間差:2.65[95%CI:1.37~3.92]、p<0.001)、平均CTM-3スコアが76.5 vs.70.3(6.16[0.90~11.43]、p=0.02)と有意差が認められた。平均EQ-5D-5Lスコアも、6週時点で0.7 vs.0.7(0.06[0.01~0.11]、p=0.02)、6ヵ月時点で0.7 vs.0.6(0.06[0.01~0.12]、p=0.02)と有意差があった。しかし、6ヵ月時点の平均値QALYは0.3 vs.0.3(0.00[-0.02~0.02]、p=0.98)で有意差は認められなかった。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)