ノルウェーでは2005~15年の期間に、家計所得別の平均寿命の差が実質的に拡大しており、米国と比較して男女とも低~中所得層の平均寿命が長かった点を除けば、両国は類似の傾向にあることが、ノルウェー公衆衛生研究所のJonas Minet Kinge氏らの調査で示された。研究の詳細はJAMA誌オンライン版2019年5月13日号に掲載された。所得関連の平均寿命の差の理解には、死因を調査し、各国間で比較することが重要だという。米国の2000~14年のデータでは、最も富裕な1%と最も貧困な1%の平均寿命の差は、男性14.6年、女性10.1年と報告されている。ノルウェーは、高所得国家であると同時に、大部分が税金で運営される公的医療保険システムが整備されており、米国に比べると所得と富の分配が公平とされる。
40歳以上の約300万人のデータを解析
研究グループは、ノルウェーにおける所得関連の平均寿命の差を検討し、米国の推定値と比較する目的で調査を行った(Research Council of Norwayの助成による)。
2005~15年における40歳以上の全ノルウェー居住者のデータを用い、世帯規模で調整した家計所得を算出した。40歳時の推定平均寿命および原因別死亡を主要評価項目とした。あらかじめ最も所得の低い集団3%(マイナスやゼロ所得者など)は除外し、主要解析では移民出身者は除外した。
40歳以上の304万1,828例(2,580万5,277人年)が解析に含まれ、調査対象の期間中に44万1,768例が死亡した。解析時の平均年齢は59.3歳(SD 13.6)、1人当たりの平均世帯人数は2.5人(1.3)だった。
所得上位1%と下位1%の差、女性8.4年、男性13.8年
平均寿命は、男女とも家計所得が高いほど長く、どの所得層でも学歴が高い集団で長い傾向が認められた。
2011~15年の平均寿命は、所得が最も高い1%の女性(86.4歳、95%信頼区間[CI]: 85.7~87.1)が最も長く、所得が最も低い1%の女性(78.0歳、77.1~78.9)より8.4年(7.2~9.6)長かった。一方、所得が最も低い1%の男性の平均寿命(70.6歳、69.6~71.6)が最も短く、最も高所得の1%の男性(84.4歳、83.4~85.4)に比べ13.8年(12.3~15.2)短かった。
2005~15年の期間に所得による平均寿命の差は拡大し、これに大きく寄与した死因は、高齢者では心血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患、認知症であり、若年者では薬物使用による死亡と自殺であった。
この期間に、所得上位25%の女性の平均寿命が3.2年(95%CI:2.7~3.7)延長したのに対し、所得下位25%の女性は0.4年(-1.0~0.2)短縮した。男性では、所得上位25%が3.1年(2.5~3.7)、下位25%は0.9年(0.2~1.6)延長した。
ノルウェーは、男女とも低~中所得層の平均寿命が長かった点を除けば、所得別の平均寿命の差の傾向は米国と類似していた。また、絶対所得で比較すると、ノルウェーの最下位所得層の平均寿命は、米国のある程度所得が高い層と一致しており、男女ともに米国とノルウェーの差は、より小さくなった。米国との比較において移民を加えても除外しても、解釈に変更はなかった。
著者は、「健康の評価では、絶対所得よりも相対所得が重要とされるが、これらの知見は、国際的な比較研究では絶対所得が重要になるとの見解を支持するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)